レタスビッグベインウイルスの遺伝情報とゲノム構造
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要約
レタスビッグベインウイルス(LBVV)の全塩基配列を解読し、そのゲノム構造を明らかにした。本ウイルスはマイナス鎖で2分節のRNAをもち膜構造をもたないが、1分節で膜構造をもつ植物ラブドウイルスと近縁である。
- キーワード:レタスビッグベインウイルス、Varicosavirus、植物ラブドウイルス
- 担当:近中四農研・特産作物部・ウイルス病研究室
- 連絡先:電話0877-63-8130、電子メール tsasaya@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・生産環境(病害虫)、共通基盤・病害虫
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
レタスビッグベイン病の病原と考えられてきたレタスビッグベインウイルス(LBVV)はVaricosavirus)に属し菌類伝搬性のウイルスである。棒状で膜構造をもたない2分節の二本鎖RNAウイルスとされているが、純化が困難などの理由から全く研究が進んでいない。また、その遺伝情報は全く知られておらず、分類学的位置も不明である。そこでLBVVの全塩基配列を解読し、そのゲノム構造を明らかにして分類学的位置を決定する。
成果の内容・特徴
- LBVVは既報の二本鎖RNAウイルスではなく、マイナス鎖の一本鎖RNAウイルスである。ウイルス粒子はマイナス鎖の一本鎖RNAからできているが、中にはプラス鎖の一本鎖RNAからできているウイルス粒子が若干量存在するため、熱処理などの核酸の抽出条件でマイナス鎖とプラス鎖がアニーリングを起こし、一本鎖RNAのみではなく、二本鎖のRNAも検出されることがある(図1)。
- LBVVの全塩基数はRNA1が6797塩基で、4.8kDaの小さなタンパク質と232kDaのRNA複製酵素(L)、RNA2が6078塩基で、44kDa(CP、外被タンパク質)、36kDa(O2)、32kDa(O3)、19kDa(O4)および41kDa(O5)の5つのタンパク質をコードしている。ゲノム構造は、LBVVは2分節ではあるが、1分節ゲノムで虫媒伝染性の植物ラブドウイルスと似ている(図2)。
- LBVVゲノムがコードするタンパク質のうち、特に、外被タンパク質とRNA複製酵素はラブドウイルスの対応するタンパク質と高い相同性を示す。RNA複製酵素のアミノ酸配列を用いた系統樹において、LBVVは植物ラブドウイルスとクラスターを形成する(図3)。
- LBVVは転写においてキャップ構造とポリAテールを持ったメッセンジャーRNAを発現する。LBVVの遺伝子間にはラブドウイルスで見られる特徴的な転写開始・終結シグナル配列が存在することから、ラブドウイルスと同様の転写機能が働いていると推察される(図4)。
以上より、ゲノム構造、外被タンパク質とRNA複製酵素の相同性および転写機能において、LBVVは2分節の膜構造を持たない棒状ウイルスではあるが、1分節の膜構造を持つ弾丸状のラブドウイルスと近縁である。
成果の活用面・留意点
- 本遺伝子情報を用いた遺伝子診断法や発現タンパク質を用いた血清学的診断法の開発が可能である。
- 本成果により,ウイルス分類学上本ウイルスは二本鎖RNAウイルスから一本鎖RNAウイルスに移されることになる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:病原ウイルスの特性解明と診断法の開発
- 予算区分:行政対応特別研究(レタス)
- 研究期間:2000~2002年度
- 研究担当者:笹谷孝英、草塲新之助、石川浩一、小金澤碩城
- 発表論文等:1) Sasaya et al. (2001) J. Gen. Virol. 82: 1509-1515.
2) Sasaya et al. (2002) Virology 297: 289-297.