UV-Bによるホウレンソウ葉身内抗酸化能増加の局所性

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

圃場条件で、UV-Bがホウレンソウ葉身内抗酸化能に及ぼす影響には品種間差がある。UV-Bの影響を受ける品種では、葉身内抗酸化能はUV-B照射により増加し、UV-B除去により減少する。UV-B暴露により生じた抗酸化物質は他の個葉に移送されない。

  • キーワード:UV-B、圃場条件、ホウレンソウ、葉身、抗酸化能
  • 担当:近中四農研・地域基盤研究部・気象資源研究室
  • 連絡先:電話 084-923-4100、電子メール yonesan@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境、共通基盤・農業気象
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

B領域紫外線(波長域:280~320nm、以下UV-B)増加が植物に及ぼす影響について、圃場条件で行われた研究は少ない。室内試験の結果から、植物体内に浸透したUV-Bによって活性酸素が増加すると、過剰になった活性酸素を消去するために抗酸化能が増加することが知られている。しかし、圃場条件での報告はほとんどない。そこで、UV-Bのホウレンソウ葉身内抗酸化能増加に及ぼす影響について、圃場条件で検討する。

成果の内容・特徴

  • 4~5葉期の苗をポットに移植し疎植(ポット間15cm×15cm)にして、圃場条件で2~3週間栽培する場合には個葉の相互被陰はほとんど生じない(サンプリング時のLAI.が1.5~2.2)。最大葉をはさむ3個葉から6枚ずつ打ち抜いた直径6mmのリーフディスク計18枚で個体当たりの抗酸化能を評価すると、UV-B増加が抗酸化能に及ぼす影響には品種間差がある(図1)。
  • 上記の疎植条件で影響を受ける品種について、ホウレンソウを慣行法に準じた栽培条件(株間5cm・条間15cm・6条植え)で圃場で栽培する。この場合、収穫期には個葉の相互被陰が大きく生じる(120×280cmのプロット全体で計算した収穫期のLAI.は3.6)。群落を構成する15株から生体重が中庸な5株を選び、全ての葉身を2cm角程度に切断してよく混ぜたのち取り出した3gFwのサンプルで群落全体の抗酸化能を評価すると、現行の2倍程度のUV-B増加が抗酸化能に及ぼす影響がみられなくなる(図2)。
  • 同じ品種について、展開直後の個葉及び隣接する展開中の個葉2葉だけを残し他の個葉を全て除去した苗を個葉の相互被陰のない条件で栽培する。各個葉から12枚ずつ打ち抜いた直径6mmのリーフディスクで個葉ごとに測定すると、UV-B照射で抗酸化能は増加し、フィルタによるUV-B除去で抗酸化能は減少する。この2つの現象は同一個体の異なる個葉で同時に生じる(図3)ことから、UV-B暴露で増加した抗酸化物質は他の個葉には移送されないことがわかる。
  • 以上から、慣行法の栽植密度でUV-Bの影響がみられなくなる原因のひとつに、栽植密度の違いにより生じる相互被陰の割合の違いがあることがわかる。個体の耐性を調べる場合、群落への影響を調べる場合など、目的に応じて栽植密度の選択が重要である。

成果の活用面・留意点

  • UV-B照射の影響を解析する場合及びUV-B照射による葉内生成物質を利用する際に有効な情報である。
  • 発育の違いがこの現象の感受性に及ぼす影響については、更なる研究が必要である。

具体的データ

図1. 疎植条件(株間15cm×15cm)におけるサンプリング時の抗酸化能

 

図2. 栽植密度がUV-B による抗酸化能増加に及ぼす影響。

 

図3. UV-B 照射及び除去が個葉の葉内抗酸化能に及ぼす影響。

その他

  • 研究課題名:紫外線増加が野菜類の生育・収量及び品質に及ぼす影響の評価に関する研究
  • 予算区分:地球環境
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:米村 健
  • 発表論文等:1)米村(2002):Journal of Photoscience 9(2):442-444.