四国傾斜地域における気温の逆転層が地上風へ及ぼす影響

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要約

傾斜地域の谷地形では、晴天日の夜間に気温の逆転層が発達する。これにより、日の出から斜面地表付近では比較的弱い斜面上昇風が発生する。逆転層の消滅後は、対流混合層の発達により上空の強い風が谷内部へ侵入し、地上風として反映される。

  • キーワード:斜面上昇風、逆転層、対流混合層
  • 担当:近中四農研・傾斜地基盤部・傾斜地気象研究室
  • 連絡先:電話0877-63-8131、電子メールshibata@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)、共通基盤・農業気象
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

傾斜地において発生する斜面風は、傾斜地特有の気象資源として、農業施設の自然換気等、省エネルギー的営農技術への有効利用が期待されている。本研究では、四国傾斜地において係留ゾンデ*による観測、地上風の連続観測を実施し、斜面風の実態と発生メカニズムを観測から解明することを目的とする。
*係留気球を用い、無線により上空の気象データを連続的に収集する装置

成果の内容・特徴

  • 移動性高気圧に覆われた快晴日(2002年9月19日)、高知県土佐町早明浦ダム上空における温位の経時変化から気温の逆転層の上端は、早朝は周囲の山の高さと同じ標高約1000m程度と考えられ、10:00には800m、10:30には600mまで降下し、その後消滅している(図1)。
  • 逆転層の存在する間、谷内部の風は弱いが、逆転層の消滅にともない強くなり、周囲の山を越える風速(標高1100m)と同レベルになる。そして、風向も観測点付近の谷の走行方位である南西と一致するようになる。大淵の地上観測点(標高620m)では、7:30~10:00頃まで比較的弱い斜面上昇風が継続し、その後17:00頃まで谷内部に侵入した南西の風が吹くようになる(図2)。
  • 斜面地表付近の大気安定度は、日の出(6:00頃)直後から不安定で、斜面上昇風の吹きやすい状態にある。谷内部の大気層は、早朝の強い安定状態(逆転層)から午後には次第に強い不安定状態(対流混合層)へ移行し、谷内部の大気は、上空の風が進入されにくい状態から進入されやすい状態へと変化したといえる。つまり、晴天日日中の傾斜地における地上風は、逆転層の存否により斜面上昇風から上空に由来する風に成因が切り替わる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 低気圧通過後の晴天日(5月9日)、梅雨明け直後の快晴日(7月23日)にも同様のの結果が得られている。
  • 本研究結果は、約10km幅の谷地形における現象であるので、その一部にあたるダム湖面の影響は少ないと考える。従って、本結果は、他の同規模の傾斜地においても適用できる結果であると期待される。

具体的データ

図1.高度毎の温位の経時変化

 

図2.係留ゾンデと地上観測の結果比較

 

図3.谷の南北横断面図と地上風発生機構の模式図

その他

  • 研究課題名:傾斜地域における斜面上昇風の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2003年度
  • 研究担当者:柴田昇平、菅谷博