肉用牛周年放牧による農林地の保全
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要約
中山間地における肉用牛周年放牧は、農林地の省力管理と肉用牛生産の省力低コスト化に有効である。周年放牧による農林地保全が子牛生産を基礎として成立するには、子牛販売価格30万円の場合、分娩間隔16か月以内の子牛生産技術の習得が必要である。
- キーワード:中山間地、農林地保全、肉用牛、周年放牧、分娩間隔
- 担当:近中四農研・総合研究部・総研5
- 連絡先:電話0854-82-0864、電子メールmsenda@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・農業経営、畜産草地、共通基盤・総合研究、経営、畜産草地
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
中国中山間地域では、農業従事者の高齢化や野生獣害の多発により、農林地の保全管理が困難になっている。そこで、肉用牛放牧による農林地の保全管理システムを畜産農家のいない集落に導入し、その運営管理要件を明らかにする。また、周年放牧による肉用牛生産農家の飼養技術構造等を分析し、農林地保全のための肉用牛周年放牧が子牛生産を基礎に成立するための技術水準を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 肉用繁殖牛の放牧により農林地保全を行うには、放牧に対する地権者の合意形成、繁殖牛1頭当たり1.5ha以上の農林地(牧養力約250CD)の確保、電気牧柵等の放牧施設の設置、放牧に馴れた家畜の確保、日常の家畜観察管理体制の整備が必要である。さらに、経済性を高めるには、簡易牛舎の設置、貯蔵粗飼料の確保、子牛生産技術の習得が必要となる(表1)。
- K集落では、放牧開始時には放牧施設の設置、竹や雑潅木の伐採除去等に年間約1,200時間を費やしたが、基盤整備後の3年目には、年間約450時間の作業(内観察以外200時間)で、維持期の繁殖牛8頭の放牧飼養と12haの農林地の保全管理ができた。従来の人力除草作業723時間と比べて、放牧による農林地の管理は省力的である(図1)。
- 約14haの農林地で繁殖牛を周年放牧する肉用牛生産農家(表2、B)は、慣行放牧の農家(A)に比較すると、1頭当たりの作業時間や経費が少なく、労働報酬は高い。また、労働時間が大幅に節減されるため、土地純収益はプラスであり、中山間地域の粗放的土地管理方式として、放牧利用は効果的である。
- 周年放牧による農林地保全管理の労働報酬が、通常の賃金単価750円/時を上回るためには、子牛販売価格30万円の場合、分娩間隔16か月以内の子牛生産技術が必要である。18か月以上の分娩間隔を要する場合は、牛を保有せずに既存畜産農家の牛を100円/日頭で預かり放牧する方が経済的である(図2)。
成果の活用面・留意点
- 農林地の保全管理が困難な中山間地域の農家や集落に活用できる。
- 子牛生産を行う場合は、繁殖牛1頭当たり1.5haの放牧地のほかに、授乳牛や子牛用の稲わらや乾草を確保する用地が必要である。
具体的データ

その他
- 研究課題名:遊休農林地活用型肉用牛経営の確立
- 予算区分:遊休農林地活用
- 研究期間:1998~2002年度
- 研究担当者:千田雅之、谷本保幸、小山信明
- 発表論文等:1)千田ら(2002) 近中四農研研究資料 1:1-74
2)千田・谷本(2002) 農業技術体系畜産編追録