動力ポンプを用いない排液再利用型の傾斜地用養液栽培装置

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

本装置は傾斜地で生じる給液ムラを解消し、原水の水圧により動力ポンプを用いないで給液を行うた養液栽培装置。排液は、傾斜を利用してタンクに回収し、アスピレーターにより培養液に混入して再利用する。

  • キーワード:傾斜地、養液栽培、排液再利用、アスピレーター、トマト
  • 担当:近中四農研・総合研究部・総合研究第3チーム
  • 連絡先:電話0877-63-8116、電子メールkenmei@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・野菜、近畿中国四国農業・作業技術、野菜茶業・野菜栽培生理、共通基盤・作業技術、共通基盤・総合研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

四国中山間傾斜地では、気象災害を回避し、高品質生産を行うために、平張型傾斜ハウスが開発され、施設栽培の導入が始まっ ている。しかし、傾斜地における野菜栽培では、圃場を維持するための土上げ作業や連作による土壌伝染性病害が問題となっている。これらの問題を解決するた めに傾斜地の特性を活かし、安価で、環境負荷の小さい養液栽培装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本装置は傾斜地に対応した初めての養液栽培装置であり、原液タンク、排液タンク、無動力液肥混入器、電磁弁、点滴ノズル、逆 止弁、アスピレーターなどで構成する。原水圧のみで給液を行い、動力ポンプは不要である。等高線方向に栽培ベッドを設置し、圃場の傾斜を利用して排液を回 収する(図1、図2)。
  • 傾斜地の給液では、通常の点滴ノズルを用いた場合、給液停止後に管内の培養液が低い位置より漏水して給液ムラとなる。この漏 水は、一定水圧以下になると吐出が停止する点滴ノズルを使用することで防止できる。ノズルにかかる給液停止後の水圧が一定以下となるように逆止弁などで配 管を分割することにより逆止弁または電磁弁で配管を区切ることにより給液ムラが解消できる(表1)。
  • アスピレーターを用いることで、給液時の水流により無動力で排液を新しい培養液に混入して再利用できる(図3)。本装置では、原水圧0.3MPa、二次水圧0.1MPaの場合、給液量に対する排液の混入率は実測で22%である。これにより系外に排出される量を、通常の排液率20~30%に比べて削減可能となる。
  • センサー類やベッド支持体を用いず、低コスト化がはかられており、資材費は、10a当たり116万円であり、市販の平坦地用装置の約750300~450万円に比べておよそ1/4~、1/63以下である。また、電力は、タイマー及び電磁弁の作動に用いるだけである。

成果の活用面・留意点

  • 本装置で用いている給液の均一化技術は、傾斜地における養液土耕その他の灌水技術や養液土耕にとして利用できる。
  • 本装置における給液では、常時、8割程度の新鮮な培養液が含まれており、給液管理については一般的な養液栽培に準じて行う。
  • 本装置による実証試験を平均傾斜度6度の圃場で行ったところ、4月末から12月始までの7ヶ月間以上にわたって、夏秋トマトの栽培が可能であった。

具体的データ

図1 養液栽培装置の模式図

 

図2 栽培ベッドの断面図

 

表1 停止圧付点滴ノズルと逆止弁を利用した場合の給液中および停止後の吐出量

 

図3 アスピレーターの原理

 

その他

  • 研究課題名:高度差を活用した低コスト養液栽培装置の開発
  • 課題ID:06-01-08-*-23-03
  • 予算区分:傾斜地特性野菜
  • 研究期間:2002~2005年度
  • 研究担当者:笠原賢明、東出忠桐、伊吹俊彦、角川修
  • 発表論文等:笠原ら(2003)水耕栽培の方法 特願2003-158984