絶滅危惧植物を保全するシバ型草地での放牧技術
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要約
定置放牧条件のシバ型草地では、絶滅危惧植物ムラサキセンブリの自生個体群を回復させるのに秋期休牧プログラムの導入が有効である。また、秋期休牧処理によって種多様性の高い草地群落が創り出される。
- キーワード:永年草地・放牧、野草、生態、ムラサキセンブリ、半自然草地、秋期休牧
- 担当:近中四農研・畜産草地部・草地飼料作物研究室
- 連絡先:電話0854-82-1962、電子メールyositaka@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・畜産草地、畜産草地
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
ムラサキセンブリ(Swertia pseudochinensis )は、草丈20~30cmのリンドウ科
の2年草で、環境省のレッドデータブックに記載されている草原性の絶滅危惧植物である。全国的に生育地や個体群が失われつつある中で、島根県三瓶山地域の
半自然草地は放牧によって維持されている貴重な生育地である。しかし、近年の過放牧の影響により当地域のムラサキセンブリ個体群は衰退しつつあり、島根県
からの要請にも応え、その保全策を確立するための基礎資料を得る目的で、ムラサキセンブリが伸長・開花結実する秋期の休牧プログラム導入の効果を解明する。
成果の内容・特徴
- 島根県三瓶山地域のシバ型草地に自生するムラサキセンブリは、やや集約的な定置放牧(1.0~2.0頭/ha)条件下では、経年的な個体数の減少が認められる(図1)。とくに、同草種の伸長、開花・結実期にあたる秋期には可食草量が不足するため、放牧牛による採食や踏みつけの被害が著しい。
- ムラサキセンブリ自生地を3年間、秋期(9~11月)に電気牧柵で囲って禁牧させることにより(秋期休牧区)、同草種の個体数は大幅に増加し、対照区(無休牧・連続放牧)の約2.5倍に達する(図2)。また、個体のサイズ(草丈、冠部直径、花数など)も、秋期休牧区の方が対照区よりも大きくなる(図2)。
- 秋期休牧処理によって優占種はシバからトダシバへと交代し、植生は短草型草地から長草型草地へと変化する(表1)。また、ムラサキセンブリ以外にもリンドウ、オミナエシなどの秋咲草本植物の成長や開花・結実が保障され、出現植物種数は増加して種多様性が向上する(表1)。
- 以上の点から、シバ型放牧草地への秋期休牧処理の導入は、ムラサキセンブリ自生個体群の復元に役立つとともに、種多様性の高い草地群落を創出する有効な手段となり得るものと考えられる。
成果の活用面・留意点
- 絶滅危惧植物の自生する自然公園内の半自然草地を肉用牛放牧によって保全・管理する上での基礎資料となる。
- 休牧の開始時期や面積,経年累積効果については未解明である。大規模な放牧の粗放化や休牧プログラムの実施に当たっては、畜産農家の所得補償や新たな管理主体の形成について十分に配慮する必要がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:草原性植物の生態保全と畜産的土地利用との関連解析
- 課題ID:06-07-04-*-02-03
- 予算区分:交付金
- 研究期間:1996~2003
- 研究担当者:高橋佳孝、内藤和明(姫路工大)、黄 双全(武漢大学)、井出保行、小林英和、佐藤節郎、福田栄紀
- 発表論文等:高橋(2004)日草誌 50(1):○-○(印刷中).