大麦のアミロース・フリー突然変異系統の澱粉特性
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要約
アミロース・フリーの四国裸97号の胚乳澱粉は、数%のアミロースを含む従来型のモチ性澱粉と比べ、膨潤度が大きいが、澱粉の側鎖長分布や熱的特性には本
質的な違いが認められない。原品種であるウルチ性の四国裸84号に比べると、側鎖長分布および熱的特性等が異なる。
- キーワード:アミロース含量、アミロース・フリー、大麦、突然変異、胚乳澱粉、オオムギ
- 担当:近中四農研・作物開発部・品質特性研究室
- 連絡先:電話084-923-4100、電子メールyas@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・作物生産(冬作)、作物・冬作物
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
大麦の胚乳澱粉は、アミロース含量の多寡により、モチ型、通常型および高アミロース型に分類されている。従来、モチ型澱粉
は数%のアミロースを含むもののみが知られていた。しかし、近年、ウルチ性の四国裸84号の種子を突然変異原のアジ化ナトリウムで処理することにより、ア
ミロース・フリーの胚乳澱粉をもつ四M系286(後の四国裸97号)が作出された。そこで、四国裸97号の澱粉特性を、従来型モチ性品種系統および親系統
を含む通常型ウルチ性系統との比較により解析する。
成果の内容・特徴
- コンカナバリンA(ConA)法による澱粉のアミロース含量は、四国裸97号が0.3%で最も低く、従来型のモチ性品種系統が2.2~6.5%の範囲にあり、ウルチ性系統がおよそ26~27%である(表1)。
- 澱粉の重合度(DP)6から48の側鎖について分布をみると、各試料のクロマトグラムは見かけ上区別できない。しかし、主成分分析法で解析すると、モチ性品種系統とウルチ性系統とは第1および第2主成分のプロット上で明確に区別できる(図1)。この結果は、モチ性澱粉とウルチ性澱粉の側鎖長分布が異なることを示唆している。四国裸97号と四国裸84号の澱粉の側鎖長分布の比較(図2)で示すように,モチ性澱粉は,短鎖(DP10から15)の割合が少なく,長鎖(DP31以上)の割合が多い。
- 澱粉の示差走査熱量測定(DSC)において、四国裸97号は、四国裸84号に比べ、糊化温度が高く、糊化エンタルピーが大きい(表1)。四国裸97号と従来型モチ性品種系統との間には明瞭な違いは認められない。
- アミロース含量と膨潤度との間には高い負相関(r=-0.962***)が認められる。四国裸97号の澱粉は、従来型のモチ性澱粉と比べ、膨潤度が大きい(表1)。
- モチ性澱粉を10%ヨウ素-25%ヨウ化カリウム溶液に浸漬すると、澱粉粒が膨潤・展開する現象が観察される。しかし、ウルチ性澱粉ではこの現象は認められない。
成果の活用面・留意点
- モチ性大麦澱粉の特性は、アミロース・フリーおよび低アミロース性小麦澱粉の特性を解明する有用なモデルになる。
- モチ性澱粉は通常の方法ではゲルを形成しないため、膨潤度測定はウルチ性小麦澱粉の共存下で行なう。
- Washonupanaの澱粉の側鎖長分布が他のモチ性品種・系統と異なるのは、晩生のため登熟温度が高いことによると推定できる。
- 四国裸97号は、顆粒結合性澱粉合成酵素(GBSSI)の構造遺伝子の一部に塩基置換があり、停止コドンとなっているために、GBSSIが合成されないと推定されている。
具体的データ
その他
- 研究課題名:大麦のアミロース・フリー突然変異系統の澱粉特性
- 課題ID:06-03-08-01-08-02
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2002年度
- 研究担当者:安井 健、瀬口 正晴(神戸女子大)、藤田 雅也(作物研)
- 発表論文等:Yasui et al. (2002) Starch/Starke, 54, 179-184.