匂い及び猛獣糞などに対するイノシシの行動
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要約
イノシシはこれまで、忌避作用があると考えられていたクレオソートや木酢液に対して忌避行動をおこさない。猛獣の糞や、イノシシの血液・胆汁・尿に対してもイノシシは忌避行動を示さないか、すぐに慣れてしまう。
- キーワード:野生動物、イノシシ、忌避物質、鳥獣害、行動
- 担当:近中四農研・地域基盤研究部・鳥獣害研究室
- 連絡先:電話0854-82-0144 電子メールsanglier@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・生産環境(鳥獣害)、共通基盤・病害虫
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
近年、野生鳥獣による農林業被害が増加し、農業が継続できない事態も見受けられる。イノシシによる農作物被害を防止するた
めには、イノシシの生態学的・行動学的研究を行い、新しい防除技術の開発や、共存・共生に基づく総合対策の展開を図る必要がある。しかし、イノシシの行動
学的研究は少ない。また、現場においてもイノシシの習性や行動に対する誤解から、効果の期待できない被害対策を施している場合が多い。そこで、科学的根拠
のないまま使用されてきたイノシシが忌避するとされる物質の効果について、野生生まれの飼育下イノシシを用いて検討する。
成果の内容・特徴
- これまで、忌避効果があるとされていたクレオソートや木酢液に対して、イノシシは興味を示して体に擦りつけたり摂食し、忌避行動を示さなかった。
- イノシシ用忌避材として市販されている忌避テープ(ハーブ配合)に対してイノシシは忌避行動を示さず、体への擦りつけ・摂食を行った(図1、表1)。
- イノシシは忌避効果があるとされる猛獣糞(ライオン糞、トラとクロヒョウ糞の混合物)に対して無視する、鼻で接触する、体に擦りつけるなどの行動を示し、その前後に餌を平然と摂食した(図2)。
- 有害駆除されたイノシシの内臓から採取した尿・血液・胆汁に対して、ほとんどのイノシシが無視あるいは体に擦り付けた後に、その先にある餌を摂食した。血液に対して回避行動を示した個体もいたが、すぐに慣れて血液を無視して餌を食べた(表2)。
- これらの物質に対するイノシシの行動は、匂いに対して避けるのではなく、物質が散布されたことによる環境変化によって一時的に警戒すると考えられる。
成果の活用面・留意点
- イノシシが忌避すると信じられている物質には、飼育下イノシシに対して効果が見られないものがあるので、イノシシ被害防除での使用には注意する。
- 忌避物質とされるものの中には、嫌うよりも好む反応を示す場合があり、長期間の使用は誘因物質になる可能性がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:イノシシにおける感覚・運動能力及び異種動物との生物学的関係の解明とその応用
- 課題ID:06-08-03-*-02-03
- 予算区分:鳥獣害
- 研究期間:2001~2005年度
- 研究担当者:江口祐輔、宮重俊一、林孝、石井忠雄、仲谷淳、竹内正彦、上田正則
- 発表論文等:
江口ら(2002)鳥獣害対策の手引き 日本植物防疫協会 154p
江口(2003)イノシシから田畑を守る 農文協 149p