鉄コーティング種子を用いた水稲の湛水表面播種

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要約

水稲の乾燥種子を鉄粉でコーティングして重くし、代かき後に湛水条件で、またカモが飛来する時は落水条件で、土壌表面に播種する。浮き苗の発生やスズメの食害は無く、苗立ちは安定する。農閑期にもコーティングが行え、資材費は削減できる。

  • キーワード:イネ、コーティング種子、鉄、鳥害、湛水直播、苗立ち、比重
  • 担当:近中四農研・地域基盤研究部・土壌水質研究室
  • 連絡先:電話084-923-4100、電子メールmyamauch@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境 (土壌・土木・気象)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

湛水直播には省力・低コスト等のメリットがあるが、実際には浮き苗の発生や鳥害により苗立ちが安定せず、農繁期の種子コーティングや緻密な水管理等のわずらわしさもある。そこで、簡易で苗立ちの安定する湛水直播技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 活性化した種子(平成13年度成果情報)に鉄粉をコーティングする(図1)。鉄で種子をコーティングできるのは、鉄粉が種子の表面で錆びて(酸化して)、発生した錆が糊の役目をするからである。鉄粉は還元鉄で粒子が細かいものが適す。種子と焼石膏を混ぜた鉄粉をコーティングマシンに入れ、水をスプレーしながら造粒する。コーティング比(種子の重さに対して使用する鉄粉の重さ)が小さいときは、たらいなどを使い手作業でコーティングできる。最後に焼石膏のみを添加し、鉄コーティング種子の表面を滑らかにする。
  • 苗箱などの底の浅い箱に入れ、酸化を進めると同時に乾燥させる。このとき発熱し酸素を吸収する。そのため、コーティングした種子は塊にせず、薄く広げて熱を逃がす。また風通しの良い所で作業する。種子が乾くと酸化は停止する。
  • コーティング比を変えることにより種子の比重や重さを調節できる(図2)。
  • 鉄コーティング種子は湛水下で土壌表面に播種する。カモが飛来する水田では、自然落水した後で播種する。条播する時は、作溝、覆土をせず、種子を自然落下させる。除草剤ピラゾレート粒剤を代かき水中に早めに散布する。
  • 浮き苗(平成13年度成果情報)やスズメによる食害は発生しない(図3)ため、苗立ち率は多くの場合50%以上である。土壌の異常還元による障害を避けるため、播種後5日頃から落水管理とする。
  • 移植に比べて倒伏しやすい。条播で同じ施肥レベルの時、収量は同程度である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 代かき水を落とさずに播種できるので水環境の保全に好ましく、除草剤の効きもよい。
  • 本技術の導入初年度にはコーティング比を0.5~1とし、その時の浮き苗の発生程度を見て次年度はコーティング比を上下させる。
  • 使用する鉄粉量は2~5kg/10aであり、含鉄資材連年施用量の5~15%に相当する。資材費は200~1600円/10a程度である。産業廃棄物として産出された鉄粉も利用できるが、その場合重金属等の汚染物質の混入がないことを確認した後、使用する。
  • 表面播種とは播いた種子の半数ほどが地表面に見えている状況である。
  • 除草剤は播種前後に散布できるものが適しており、関係機関の指導に従う。

具体的データ

図1.種子の準備と鉄コーティングの手順図2.鉄コーティング比と種 子の比重および重さの関係

 

図3.スズメによる食害が発生する条 件下での催芽種子、乾燥種子、鉄及び 酸素発生剤コーティング種子の苗立 ち率 表1.播種試験における苗立ちと収量

その他

  • 研究課題名:鉄コーティング湛水直播技術の開発
  • 課題ID:06-08-04-*-14-04
  • 予算区分:ブラニチ5系
  • 研究期間:2001~2004年
  • 研究担当者:山内 稔
  • 発表論文等:1) 山内 稔(2004)農業および園芸 79:947-953
                      2) 山内 稔(2004)植調 38:322-329
                      3) 山内 稔(2005)現代農業 84(3):114-117