傾斜ハウス及び傾斜地対応型養液供給システムによる夏秋トマト栽培体系

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要約

通常ハウスの建設が困難な傾斜地で、均一な給液により畝間の収量差を解消した養液供給システムを構築し、傾斜ハウスを利用した夏秋トマト栽培体系を開発した結果、慣行雨よけ栽培に比べ、殺虫剤使用量が削減され、収量及び生産性は増加する。

  • キーワード:傾斜地、トマト、傾斜ハウス、養液、収量、給液
  • 担当:近中四農研・総合研究部・総合研究第3チーム
  • 連絡先:電話0877-63-8116、電子メールton@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・野菜、共通基盤・総合研究、野菜茶業・野菜栽培生理
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

四国の中山間傾斜地では、夏季の冷涼な気候を利用して夏秋トマト栽培が行われているが、圃場の傾斜が急なため通常ハウスは建設できず、簡易雨よけ施設が用いられている。簡易雨よけ栽培では、畝ごとに作物上部のみをフィルムで被覆するため強風や降雨、害虫等の影響を受け、生産は安定しない。また、傾斜地トマト栽培では、圃場表土の落下に対応する土揚げ作業や長年の連作による土壌病害が問題となっている。これらの問題を解決するため、傾斜地用の養液供給システムを開発するとともに、傾斜ハウスを導入した夏秋トマトの安定生産技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 傾斜地のトマト栽培において点滴給液を行う場合、給液が不均一になりやすく、その結果、収量に位置的な差が生じる(表1左)。管内水圧が一定以下になると液の吐出が停止する点滴資材を用い、配管法を工夫した傾斜地用養液供給システムの開発により(図1)、給液の不均一とそれに伴う収量の位置的な差は解消される(表1右)。開発した養液供給システムは、原水圧を原動力として給液及び肥料混入を行う低コスト、省エネルギー型のシステムであり、養液土耕及び養液栽培に利用できる(図1)。
  • 急傾斜地でも建設可能な傾斜ハウス(平成11年度四国農業研究成果情報)により、強風や降雨の影響は回避できる。傾斜ハウス及び傾斜地対応型養液供給システムの利用により、標高300m以上の中山間傾斜地における夏秋トマト栽培の作型は、4月中旬定植、収穫期間6月中旬~12月中旬となる(図1)。
  • 傾斜ハウス及び傾斜地対応型養液供給システムの利用により、慣行の簡易雨よけ栽培に比べて収穫期間は無加温でも前後に拡大され、収量は大幅(平均2倍以上)に増加する(表2)。これにより販売額も慣行の2倍以上(10aあたり330万円程度)となり、土地生産性及び労働生産性が向上する。
  • 傾斜ハウスでは、慣行雨よけ栽培で設置が不可能な防虫ネット及び非散布型製剤(黄色テープ)を利用することにより、殺虫剤の使用量を大幅に削減できる(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、徳島県三加茂町の山腹型傾斜畑地域(標高300~600m、傾斜度4~25°)において開発したものであり、傾斜が急なために通常ハウスの建設が困難な地域において利用する。
  • 慣行雨よけ栽培に比べ殺虫剤の使用は大幅に削減できるが、収穫期間が低温期まで延長されたため、葉カビ病等の防除が必要となる。
  • 傾斜地対応型養液システムは容易に自作でき、資材費は10aあたり50万円であり、養液栽培(杉皮培地バッグカルチャー、ロックウール等)を行う場合はさらに66万円程度必要である。また、傾斜ハウスの資材費の初期投資額は10aあたり300万円程度である。

具体的データ

表1. 高低差のある傾斜地養液栽培ベッドのトマト収量に給液が及ぼす影響

 

図1.傾斜ハウス及び傾斜地対応型養液供給システムの概要と中山間傾斜地夏秋トマト栽培の基本作型

 

表2.傾斜ハウス・養液供給システムによるトマト栽培と慣行雨よけ栽培の収量及び収穫期間

 

表3. 傾斜ハウス・養液システム及び慣行雨よけによるトマト栽培における農薬使用回数

その他

  • 研究課題名:高標高地及び平地ハウス等の標高差を利用したリレー栽培技術の開発
  • 課題ID:06-01-08-01-29-04
  • 予算区分:傾斜地特性野菜
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:東出忠桐、伊吹俊彦、笠原賢明、角川 修
  • 発表論文等:1) 東出ら(2005) 園学研 4(1):33-40.
                      2) 東出(2004) 農林水産技術研究ジャーナル 27(11): 34-38.