斜面風と雨水を組み合わせた傾斜地用の簡易細霧冷房システム

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要約

傾斜地用の簡易細霧冷房システムは、斜面風と雨水を利用可能な天窓と貯水槽を備えている。防虫ネットを付設した平張型傾斜ハウスで本システムを稼動した場合、トマト群落内平均気温は、真夏日においても外気温プラス2℃以下に抑制できる。

  • キーワード:傾斜地、斜面風、雨水、細霧冷房、傾斜ハウス
  • 担当:近中四農研・傾斜地基盤部・傾斜地気象研究室、基盤整備研究室
            近中四農研・総合研究部・総合研究第3チーム
  • 連絡先:電話0877-63-8131、電子メールshibata@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)、共通基盤・総合研究、共通基盤・農業気象
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

四国の急傾斜地のような耕地面積の限られた場所における農家の所得向上のためには、施設化による高付加価値生産がますます重要になってきている。暖地の平坦部では、夏季の施設内の暑熱が周年栽培の障壁となるが、傾斜地では、日中に自然発生する斜面風を施設換気の駆動力として利用できる。また、施設の屋根面へ降った雨は、傾斜を利用し容易に集め、貯留・利用することができる。本研究は、これらの傾斜地の気象資源を用いて防虫ネットの付設などにより通気性の落ちた傾斜地施設の暑熱緩和技術を開発することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、ハウス屋根面山側に斜面風によって換気を促進するための二重屋根式天窓を、また、ハウス谷側には屋根面からの雨滴による土壌浸食を防止し、雨水を貯留・利用可能とするコンクリート製の貯水槽(兼排水路)を備えている(図1)。
  • 二重屋根式天窓は、日中にハウス山側に集積した高温空気を上方へ排気させ、ハウス内気温を外気温に近づける働きがある(図2)。目合い0.6ミリの防虫ネットを付設した平張り型傾斜ハウスにおけるトマト群落内平均気温は、屋根面1.8%の天窓面積の場合に最大で外気温プラス6℃にまで及んだが、2004年の天窓面積の拡大(屋根面の8.2%)によって外気温プラス4℃以下に抑制できた(図3)。

  • 本細霧冷房システムによって、風の条件が良い場合(斜面風の風速が2m/s以上)は、真夏日においてもトマト群落内気温を外気温並みに抑制できる(図3)。風条件の良くない場合(風速2m/s以下)においても、トマト群落内気温は、外気温プラス2℃以下に抑制できる。
  • 降雨貯留と細霧冷房による貯留水の消費のシミュレーション結果をみると、1週間~10日間程度の無降雨期間があっても、貯留槽は十分な容量(4m3)を持つので、補給なしにシステムを稼動できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 細霧ノズルには、サンホープ製DN-740を用いる。本ノズルは、標準噴霧作動圧力が4kgf/cm2と低いので、配管が簡単で安価な塩ビ管を使用できる。すなわち、資材やポンプ等の低コスト化が図られる。この簡易細霧冷房システムの10a当たりの導入コストは、80万円と試算され、一般的な細霧冷房の導入コストといわれる150万円と比較して低くなる。
  • 本ノズルの平均噴霧粒径は、30~100ミクロンと大きな粒子を含むので、噴霧された水粒子の一部は、空気中では完全に気化せずに作物へ付着する。しかし、秒単位での噴霧時間のコントロール、細霧冷房動作を15:00までに制限、等の処理により継続的な葉濡れは回避できる。
  • 適切な散水量は、VETH線図により設計する。東海大の林教授による細霧冷房運転支援ソフトウェア(フリーソフトとして配布されている。問い合わせ先:hayashi@fb.u-tokai.ac.jp)の利用が便利である。

具体的データ

図1. 傾斜地用の簡易細霧冷房システムの概要

図2. 2 重屋根式天窓の換気効果

 

図3. トマト群落内平均気温と外気との温度差の時間変化図4. 降水量の実測値に基づく貯水量のシミュレー ション結果

 

注)

 

その他

  • 研究課題名:斜面風を活用した効率的換気技術の開発、傾斜ハウスにおける雨水処理・利用技術の開発
  • 課題ID:06-01-08-*-21-04、06-01-08-*-22-04、06-02-04-01-06-04、06-02-01-01-06-04
  • 予算区分:傾斜地特性野菜
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:柴田昇平、井上久義、伊吹俊彦、笠原賢明、東出忠桐、菅谷 博