傾斜畑地域での夏秋トマト作における平張型傾斜ハウスの導入効果
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
傾斜畑地域で平張型傾斜ハウスを導入する場合、資材費の初期投資額は約3,000円/m2であり、簡易雨除け栽培の夏秋トマト作に比較して農薬使用の減少、秀品率の向上、収穫期間の延長による収量・販売額増加、などの効果がある。
- キーワード:傾斜畑地域、トマト、平張型傾斜ハウス、簡易雨除け施設、導入効果、資材費
- 担当:近中四農研・総合研究部・園芸経営研究室
- 連絡先:電話0877-63-8117、電子メールtsakoda@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・農業経営、共通基盤・総合研究、共通基盤・経営
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
四国の傾斜畑地域における夏秋トマト作は簡易雨除け栽培が主である。この簡易雨除け施設は傘状の天井部のみを被覆する構造のため、病虫害、品質低下、天候の影響を強く受けて収穫期間が短い、などの問題に直面している。この対応策の1つとして側面部の被覆も含めた施設化が有効と考えられる。そこで本情報ではこれらの点を踏まえて、近中四農研が開発した建設用足場パイプを用いた「低コスト平張型傾斜ハウス」(以下、傾斜ハウス)の導入効果を示す。
成果の内容・特徴
- 徳島県三好郡M町K地区は、標高300~600mで傾斜度20度以上の畑を有する渓谷型地形における傾斜畑地域の夏秋トマト産地(栽培農家34戸)である。このK地区で夏秋トマトを栽培する生産者の意向調査によると、現状の簡易雨除け施設によるトマト栽培は、青枯病、萎凋病などの病害、オオタバコガ、コナジラミなどの虫害、低価格、農薬散布などが問題であり、農薬使用の減少、秀品率の向上、収量増加、などの要望がある(図1)。
- 傾斜ハウスと隣接する簡易雨除け施設での栽培実績を比較(栽培方法は養液土耕で共通だが誘引方法と防除資材が一部異なる)すると、傾斜ハウスでは、品質の向上、農薬使用頻度の減少(特に殺虫剤)などの効果がある(表1)。また実証農家(A経営)における過去3作の実績から、傾斜ハウス栽培は簡易雨除け栽培に比較して収穫期間が2ヶ月以上延び、10a当たり収量は13.6tで簡易雨除け栽培に比べ7.5t多い。また10a当たり販売額は傾斜ハウス栽培が334万円、簡易雨除け栽培が144万円で190万円の増加となる(表2)。
- 2.より傾斜ハウス栽培は簡易雨除け栽培に比べて、病虫害の減少、農薬使用の減少、秀品率の向上、収量および販売額の増加などが認められ、1.の意向調査で挙げられた問題点や要望に応えている。一方、簡易雨除け栽培は投下労働時間が少ない。しかし簡易雨除け栽培は過去3作でも天候(長梅雨や台風など)の影響を強く受けた結果、収穫期間が短く、収量自体が低いことから土地生産性、労働生産性が低位なものとなっている(表2)。
- 傾斜ハウスの資材費の初期投資額は約3,000円/m2で、これは平坦地対応のパイプハウスを傾斜地用に補強して建設する場合(約4,000円/m2と試算されている)に比べて約25%コスト減にあたる。建設事例6棟より総資材費を算出すると5aでは約140万円である(図2)。傾斜ハウスの年償却額は、フィルム(5aで約25万、耐用年数3年、残存価額ゼロ)、ハウス本体(同約115万、10年、10%)の合計で18.7万円(均等償却の場合)となる。
成果の活用面・留意点
- おもに傾斜地において、露地や簡易雨除け施設でトマト栽培を行う地域に適用できる。
- 傾斜ハウスの構造などに関しては、「不整形な傾斜圃場に適した低コスト平張型傾斜ハウス」『総合農業の新技術』第13号、農林水産省農業研究センター、pp.219-224、2000、や「平張型傾斜ハウス施工マニュアル」近畿中国四国農業研究センター、p.25、2002、を参照。
- 傾斜ハウスは自力建設も可能であり、本情報では建設労賃は含めていない。
具体的データ


その他
- 研究課題名:高付加価値野菜生産のための基盤生産技術の経済性評価
- 課題ID:06-01-08-*-32-03、06-01-04-*-07-03
- 予算区分:傾斜地特性野菜
- 研究期間:2002~2003年度
- 研究担当者:迫田登稔、室岡順一、島 義史、東出忠桐、伊吹俊彦、笠原賢明