開口部を防虫ネットで被覆したコマツナ栽培ハウスでの作業温熱環境の改善
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要約
単棟パイプハウスの開口部に0.6mm防虫ネットを被覆した場合、コマツナが生育している高さの温湿度環境は高温期でも大きく変化しないので健全な生育が可能である。一方、作業者付近の温熱環境は過酷になるが、天窓換気と作業者への送風によって改善される。
- キーワード:作業温熱環境、湿球黒球温度、送風、天窓換気、防虫ネット
- 担当:近中四農研・野菜部・施設栽培研究室
- 連絡先:電話0773-42-9906、電子メールham@affrc.go.jp
- 区分:近畿中国四国農業・野菜、共通基盤・総合農業
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
パイプハウスを利用したコマツナの減・無農薬栽培において、ハウス開口部を被覆する防虫ネットは、広く用いられる1mm目合いよりも細かい0.6 mm目合いのものが害虫の侵入抑止に効果的であることがわかっている。しかし、0.6 mm目合いの防虫ネットはハウスの通気性をより低下させるので、高温期の昇温が問題になる恐れがある。そこで、防虫ネットを展張したハウス内の気象環境がコマツナの生育に及ぼす影響と、作業温熱環境の指標である湿球黒球温度(WBGT; Wet Bulb Globe Temperature)の状況を把握し、その改善方法を提唱する。
成果の内容・特徴
- 側面開口部を0.6mm目合いの防虫ネット(間隙率0.5)で被覆した南北単棟ハウス(間口5.5m、奥行き20m、棟高3m、軒高1.6m、被覆材:PO、ハウス表面積に対する側面開口部の面積比:約20%)の内部では、鉛直方向に気温は上昇し飽差も大きくなるが、植栽付近(0.2m高さ)では、高温期の快晴日でも側面無被覆のハウスと大きな差はない。その結果、気象環境はコマツナの生育に大きな影響を与えずに側面無被覆ハウスと同程度の生育を示す(図1)。
- 施設栽培における農作業の作業強度は、RMR(エネルギー代謝率)が1~2の極軽作業~軽作業が中心であるが、高温期の0.6mm防虫ネット(ポリエチレン平織り)を被覆したハウスでは、日射の増加に伴い、作業者の胸から顔付近のWBGT(1.5m高さ)は上昇し、日中は防虫ネット無被覆ハウスよりも高く推移する。温熱環境的に安全な時間帯は、日の出後、日没前の数時間程度に限られる(図2)。
- WBGTを低下させることができる1~2ms-1程度の送風を作業者に行って強制対流熱伝達を促進したり、ハウスの天井部に天窓を備え付けて温度差換気を促進したりすると、温熱環境的に安全に作業できる時間が長くなる(図3)。送風と換気それぞれ単独でも効果はあるが、両者を組み合わせると、より効果的になる(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本成果で示した栽培条件は、軟弱徒長を避けるために無遮光である。
- 日射のある屋外環境でのWBGT (℃) はISO-7243の規格より、WBGT=0.7・Twn + 0.2・Tg + 0.1・Ta (Twn: 自然湿球温度;通風・遮光しない条件下での湿球温度、Tg: 黒球温度、Ta: 気温(乾球温度)の式から求められる。一般的にWBGTは、強日射・弱風速・高湿度の条件下で上昇する。
- 電源設備の無い施設用に太陽電池をつけた送風台車を開発し(発表論文(2))、実用化を検討中。
- 高温期の作業では、作業者は淡色で通気性のいい服装をするのが望ましい。
具体的データ


その他
- 研究課題名:減・無農薬生産における生産安定技術の開発-施設栽培
- 課題ID:06-06-02-(01)-08-04
- 予算区分:21世紀7系・中山間水田野菜
- 研究期間:2001~2005年度
- 研究担当者:嶋津光鑑、浜本 浩、池田 敬、岡田敏壽、萩森 学
- 発表論文等:1) 嶋津ら (2003) 園芸学会雑誌 72 (別2):189.
2) 嶋津ら (2004) 送風ファンを備えた施設内移動作業台車、特願2004-181314
3) Shimazu et al. (2004) International symposium on Food production and environmental
conservation in the face of global environmental deterioration Abstracts:110.