塩類集積土壌における土壌微生物バイオマス当り呼吸活性維持のための指標

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要約

土壌微生物バイオマス当りの呼吸活性を低下させないための診断指標としては、土壌溶液中の塩素と硫酸イオン濃度を各々200ppm、2000ppm以下にし、水溶性有機態炭素濃度を8ppm以上とすることが望ましい。

  • キーワード:土壌微生物バイオマス、呼吸活性、陰イオン、塩類集積
  • 担当:近中四農研・野菜部・畑土壌管理研究室
  • 連絡先:電話0773-42-0109、電子メールkhori@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

周年栽培が強く志向されている近畿中国地域の野菜栽培の土壌管理においては、塩類集積対策が重要である。また、近年の消費ニーズを反映した有機栽培・減化学肥料栽培志向の強まりにより多種類の有機物が概して多量に施用されており、新たな塩類集積問題が生じている。塩類集積土壌の診断としては、濃度障害や特定肥料成分の過剰障害に関する診断技術が普及しているが、これよりも低いレベルの塩類集積条件においても土壌微生物がストレスを受けているという近年の知見がある(堀、1991:総合農業の新技術)。そこで、土壌微生物バイオマス当りの呼吸活性(以下:呼吸活性)を低下させないための診断指標を策定する。

成果の内容・特徴

  • 土壌の呼吸量の測定に当っては、土壌の採取に伴うかく乱が呼吸量に影響を及ぼすことが知られている。非かく乱条件で土壌試料を採取するために用いる採土管は、50mlまたは100mlのいずれを用いても、またグルコース添加の有無に係わらず、単位土壌量当りの呼吸量には差がない(表1)。
  • 有機物施用後の呼吸活性は10日までの初期に有機物の種類による違いがみられ、バーク堆肥や牛ふん堆肥は呼吸活性への影響が小さく、クロタラリア茎・葉のような易分解性有機物で呼吸活性が高まる(表2)。
  • 呼吸活性は土壌溶液のK、Ca、Mg濃度とは明確な傾向がない(データ略)が、SO4が1000-2000ppm、Clが100-200ppmを超えると低下し、水溶性有機態炭素含量が8ppm以下になると低下する(図1)。
  • 土壌溶液SO4、Cl濃度と水溶性SO4、Cl含量の間には両対数で相関関係があり、呼吸活性が低下する土壌溶液SO4、Clの濃度は、水溶性SO4、Clの30-350mgkg-1、20-200mgkg-1に相当する(データ略)。水溶性SO4、Cl含量の各々350mgkg-1で作物の発芽障害が生ずるとされているので、作物よりも低濃度で微生物の呼吸活性が低下することとなる。

成果の活用面・留意点

  • 土壌の呼吸量は、50mlまたは100mlの採土管を用いて採取し、500mlのスチロール棒ビンに入れ、CO2吸収のためのアルカリ溶液を入れたカップを設置し、滴定法でCO2発生量を測定する。バイオマスはくん蒸抽出法を用い、抽出された有機態炭素を全有機態炭素計もしくはチューリン法で測定する。呼吸活性は、呼吸量をバイオマスで除して算出する。
  • 成果の内容3.のイオン濃度に対応する呼吸活性の値0.2~0.3Cmg24hr-1Cmg-1以上を好ましい暫定値として提案するが、今後、土壌タイプ・作物の種類や作型(地温)毎に、呼吸活性について適正範囲と、改善対策技術を構築する必要がある。

具体的データ

表1 土壌の呼吸量測定における試料土壌量及び土壌表面積の影響

 

表2 土壌微生物バイオマス当りの呼吸活性の有機物添加後の経時変化

 

図1 土壌微生物バイオマス当りの呼吸活性に及ぼす土壌溶液Cl、SO4、水溶性C 濃度の影響

その他

  • 研究課題名:塩類集積、有機物施用における土壌微生物活性の変動要因の解明
  • 課題ID:06-06-03-*-05-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2004年度
  • 研究担当者:堀 兼明、須賀有子、福永亜矢子、浦嶋泰文、(故)宗林 正(奈良農試)、池田順一