低アミロース性小麦突然変異系統K107Afpp4のRVA特性を決定する対立遺伝子

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

小麦突然変異系統K107Afpp4の低アミロース性およびRVA特性を支配する遺伝子は、Wx-D1 座の新しい対立遺伝子Wx-D1g である。

  • キーワード:アミロース含量、コムギ、対立遺伝子、低アミロース性、突然変異、RVA
  • 担当:近中四農研・作物開発部・品質特性研究室
  • 連絡先:電話084-923-5381、電子メールyas@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産(冬作)、作物・冬作物
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

小麦突然変異系統K107Afpp4は低アミロース性であり、その小麦粉の粘度特性をラピッド・ビスコ・アナライザ(RVA)を用いて測定をすると、低温で粘度が上昇し、最高粘度到達時間が短い特徴がある。この特徴は、原系統である小麦関東107号のWx 座において唯一機能している対立遺伝子Wx-D1a の変異によるものと推定できる。そこで、Wx-D1 座の対立遺伝子のみが異なる二つの系統〔関東107号(Wx-D1a )および関東107号の遺伝的背景をもつもち性の戻し交雑系統(Wx-D1d )〕とK107Afpp4の組み合わせにおける交雑後代のRVA特性を遺伝分析し、K107Afpp4のRVA特性を決定する対立遺伝子を解析する。

成果の内容・特徴

  • 関東107号とK107Afpp4との組み合わせにおいては、両親とF1の粘度特性のプロフィールは類似している(図1)が、測定開始後6分の粘度を最高粘度で除し、個体毎の澱粉含量の違いの影響を低減することにより、両親とF1のプロフィールを区別できる。この組み合わせの交雑後代のRVA特性を遺伝分析すると、両系統のRVA特性の違いは単一の不完全優性遺伝子により支配されていることが分かる(表1)。
  • もち性の戻し交雑系統とK107Afpp4との組み合わせにおいては、両親とF1の粘度特性のプロフィールは容易に区別できる(図2)。この組み合わせの交雑後代のRVA特性を遺伝分析した結果、両系統のRVA特性の違いは単一の不完全優性遺伝子により支配されていることが分かる(表2)。また、F2世代には関東107号型のRVA特性をもつ個体は出現しない。
  • 関東107号ともち性の戻し交雑系統とはWx-D1 座の対立遺伝子(Wx-D1aWx-D1d )のみが異なるので、以上の結果は、K107Afpp4のRVA特性を決定する遺伝子はWx-D1 座に座乗する対立遺伝子であることを示す。
  • 関東107号の遺伝的背景をもつ材料において、K107Afpp4と同等のアミロース含量あるいはRVA特性を示す材料は報告されていない(表3)ため、K107Afpp4のRVA特性は新しい対立遺伝子の働きによると推定できる。そこで、K107Afpp4の低アミロース性およびRVA特性を支配する新しい対立遺伝子をWx-D1g と命名する(表3)。

成果の活用面・留意点

  • K107Afpp4のもつ新しい対立遺伝子は、小麦澱粉のアミロース含量の遺伝的制御に利用できる。
  • 胚乳澱粉から抽出したWx蛋白質のSDS-PAGE電気泳動においては、K107Afpp4と関東107号の泳動像は区別できず、K107Afpp4におけるWx蛋白質の減少は認められない。従って、K107Afpp4のWx-D1蛋白質の構造と機能は野生型とは異なると推定される。
  • 本成果情報では、FnあるいはBC植物体に稔実した種子を合わせたものの特性をFnあるいはBC個体の特性とする。従って、F1個体でも正逆交雑による特性の違いはない。

具体的データ

図 1. 関東107号/K107Afpp4の組み合わせにおける 両親およびF1のRVAプロフィール 図 2. もち性/K107Afpp4の組み合わせにおける 両親およびF1のRVAプロフィール

 

注)

 

表1. 関東107 号とK107Afpp4 およびそれらの交雑後代のRVA 特性の遺伝的分離

 

表2. 関東107 号の遺伝的背景をもつもち性の戻し交雑系統とK107Afpp4 およびそれらの交雑後代の RVA 特性の遺伝的分離

 

表 3. 関東107 号の遺伝的背景をもち既知のWx-D1 対立遺伝子をもつ材料の特性

その他

  • 研究課題名:小麦粉粘度特性突然変異系統の成分特性および加工特性の解明
  • 課題ID:06-03-08-01-03-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:安井 健
  • 発表論文等:1) Yasui (2004) Breed. Sci. 54: 281-286.
                      2) 安井  (2004) 農業および園芸 79: 549-554.