傾斜地カンキツ園におけるマルチシートを利用した簡易排水路とその設計法

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要約

マルチシートを敷設した傾斜地カンキツ園において降雨時に発生する表面流去水を既設水路等に導くために、マルチシートの一部をハウス用パイプ等で持ち上げて形成した溝を簡易な排水路として利用する技術、およびその簡易な設計法である。

  • キーワード:傾斜地、カンキツ園、マルチ栽培、排水、表面流去水
  • 担当:近中四農研・傾斜地基盤部・地域防災研究室
  • 連絡先:電話0877-62-0800、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:共通基盤・総合研究、近畿中国四国農業・生産環境、果樹、果樹・栽培
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

近年、カンキツ産地において、高品質果実生産のためのマルチ栽培が急速に広まっている。マルチ栽培園では、降雨の浸透が妨げられ比 較的多くの表面流去水が発生する。特に傾斜地園では、災害等の防止のために適切な排水処理が重要となる。排水対策法としてはコンクリート水路や簡易な土水 路の利用が一般的であるが、これらの設置には多くの費用や労力が必要となる。そこで、簡単な作業で低コストに簡易な排水路を設置する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 簡易排水路の設置法は、図1、図2に例を示すように、ハウス用のパイプで組み立てた枠組みを用いて、マルチシートの一部を持ち上げて溝を形23ウンシュウミカン経営安定.jtd成するものである。この方法では、ある程度自由に水路勾配を設定することができる。また、設置とともに撤去も容易であり、位置変更や現状復帰にも対応しやすい。
  • 資材コストは、径19mmのハウス用パイプを図2のように用いると400∼450円/m程度である。廃材などを利用すれば、さらにコストを下げられる。
  • 簡易排水路の設計を容易にするために開発した設計支援ソフトウェアを図3に示す。必要なデータを入力すると、水路で発生する最大水深を出力するものである。本ソフトウェアを用いれば、上流から下流へ向かって徐々に水量が増加し、かつ水路の勾配によって複数の計算手法を選択する必要のある煩雑な計算を、専門知識を用いずに実行できる。
  • 設計方法は、園地の形状を図4のように平均勾配方向に沿った長方形として簡略化し、また全降雨が均等に水路に流入すると仮定することにより、必要な計算を簡略化したものである。これは、煩雑な手段により詳細なデータを収集して厳密な計算を行う従来の方法に比べ、園地形状に関する値は巻き尺と簡単な傾斜計などによる測定値を使用可能であるなど、実用性の高いものである。
  • 設計に必要なデータは、簡略化した園地の面積、幅、勾配(園地全体の平均勾配ではなく図2に示す水路設置位置付近の勾配)、水路上流端位置(図4参照)、および、排水の限界と想定する降雨強度である。
  • 設計手順は、まず、水路上流端位置と降雨強度を仮定して最大水深を算出する。そして最大水深に2∼3割程度の余裕を加えた値をマルチシートを持ち上げる高さとして、実際の設置に問題がなければ採用し、高すぎるなどの問題があれば上流端位置や降雨強度を見直して再計算するものである。

成果の活用面・留意点

  • 構造はパイプを枠組みとするものに限らず、状況に応じて便利なものとすれば良い。
  • 効率の良い水路形状とするには、水路設置位置の園地勾配が約20度以上必要である。
  • 排水先の水路等の排水能力が不十分であると他の所で災害を招く恐れがあるので、その場合には簡易水路の設置を見合わせるか、既設の排水施設の再整備を図る必要がある。
  • 本ソフトウェアはWeb上で使用できるように試験的に公開している。

具体的データ

図1 簡易排水路の設置例

 

図2 設置した簡易排水路の構造

 

図3 設計支援のための最大水深計算ソフトウェア

 

図4 簡略化した園地形状

 

その他

  • 研究課題名:園地整備に伴う水環境の変化に対応した園地管理技術の開発
  • 課題ID:06-02-02-01-08-05、06-01-07-*-29-05
  • 予算区分:カンキツ連年生産
  • 研究期間:2003∼2007年度
  • 研究担当者:島崎昌彦、福本昌人、吉村亜希子、森永邦久、草塲新之助、星 典宏