飼料イネ利用が酪農経営の経済性に及ぼす効果

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要約

飼料イネを「自給粗飼料+購入乾草」と代替させる方式は、安定確保を条件に、20円/kg未満の原物価格であれば経済的に成立しうる。飼料イネ利用による純収益の増分は、飼料イネへの堆肥散布・販売を加えることで、現行12.5円/kgで最大約2割大きくなる。

  • キーワード:飼料イネ、酪農経営、経済性、堆肥散布・販売
  • 担当:近中四農研・総合研究部・経営管理研究室
  • 連絡先:電話084-923-5346、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・農業経営
  • 分類:技術・参考

ねらい

飼料イネWCS(以下、飼料イネ)利用の普及・定着を図るには、ユーザーの多くを占める酪農経営を対象に、飼料イネ利用の経済性を ふん尿の循環利用を含めて評価することが重要である。一方で、従来の飼料生産が天候不順や労働力の制約によって安定的でないために、飼料イネを「自給粗飼 料+購入乾草」と代替させる方式が中国地域の酪農経営でみられる。そこで、都府県で平均的にみられる経産牛20頭台の事例(広島県内2戸、鳥取県内2戸) にもとづき、飼料イネ利用が酪農経営の経済性に及ぼす効果について、飼料イネを「自給粗飼料+購入乾草」と代替させる方式を中心に検討する。

成果の内容・特徴

  • 広島県内2戸の事例にもとづいた経営モデルA(表1)をもとに、飼料イネ利用による純収益の増減部分をみると、純収益が増減ゼロとなる原物価格(以下、分岐価格)は20円/kgとなる(図1)。取引価格を今後再検討する場合、飼料イネの安定確保の条件がすべて満たされれば、潜在的に購入可能な価格は最大で19円/kg程度となる。高価格なほどハンドリングコストを抑える必要が高まるため、酪農経営側に求められる第1の条件として、牛舎近隣での飼料イネ保管場所の確保が指摘できる。
  • 広島県内2戸の事例では、従来の飼料生産が不安定であることに加え、酪農経営全般の省力化に迫られているため(高齢、複数の役職のかけ持ちなど)、飼料イネを「自給粗飼料+購入乾草」と代替させる方式に大きなメリットをみいだしている。飼料イネを購入乾草(チモシー)のみと代替させている鳥取県内1戸の期間給与実績をもとに、通年給与として同様に試算すると、酪農経営全体の年間労働時間はモデルAより約130時間多い。ただ、分岐価格(21.6円/kg)はモデルA(図1)を上回る。省力化に迫られておらず、かつチモシーなどの購入乾草の利用量が多い酪農経営であれば、飼料イネを購入乾草のみと代替させる方が有利となる。
  • 広島県内1戸と鳥取県内1戸の事例にもとづき、1)堆肥舎から半径5km圏内の飼料イネ作付圃場(原物収量2.5t/10a、価格12.5円/kg)への堆肥散布・販売(堆肥散布量4t/10a)と、2)稲わら交換(堆肥散布量1.5t/10a)との代替が同時に実現すれば(酪農経営が全作業を担う)、モデルAにおける飼料イネ利用による純収益の増加部分は18%大きくなり、経産牛1頭1日当たり給与量6∼10kgで計49∼81万円/戸になる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 頭数規模の面から主要なユーザーと想定される経産牛20頭台の酪農経営を対象に、飼料イネ利用の経済性を確保するための条件を示す情報として活用できる。
  • 飼料イネ(乳酸菌添加・ロールベール・ラップ8層巻き)の利用による産乳量・乳質・健康状態の変化はなく、当初計画量と実際の確保量とのギャップや貯蔵品質低下のリスクはないことを前提にしている(広島県内2戸の通年給与実績にもとづく)。
  • 飼料イネの安定確保と中途値上げの困難性、飼料代替の違いによる経済性の差、分岐価格と希望購入価格の差、堆肥散布・販売の制約条件については、別途検討が必要である。

具体的データ

表1 経営モデルA

 

図1 飼料イネ利用による純収益の増減部分

 

図2 条件別にみた、飼料イネ利用による純収益の増加部分

 

その他

  • 研究課題名:飼料用稲生産・利用の経済性の解明
  • 課題ID:06-01-03-*-07-05 06-01-06-*-16-05
  • 予算区分:中山間耕畜連携
  • 研究期間:2003∼2005年度
  • 研究担当者:井上憲一、恒川磯雄、堀江達哉、棚田光雄
  • 発表論文等:井上・恒川 (2005) 近畿中国四国農研農業経営研究 9:8-14.