土壌のリン酸緩衝液抽出性有機態窒素の分子量分布と含有成分

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要約

土壌からリン酸緩衝液で抽出される有機態窒素は、均一なタンパク様物質と考えられてきたが、実際は低分子から高分子に連続的な分子量をもつ糖やタンパク様成分からなる物質の混合物である。

  • キーワード:リン酸緩衝液抽出、有機態窒素、タンパク様物質
  • 担当:近中四農研・特産作物部・栄養管理研究室
  • 連絡先:電話0877-62-0800、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

土壌窒素肥沃度の推定方法として有効であり、地力窒素の主体であるとの記述も見られるリン酸緩衝液抽出性有機態窒素 (Phosphate buffer Extractable Organic Nitrogen;PEON)は、土壌型や投入した肥料の種類によらず分子量8,000程度の均一な成分として土壌中に存在すると報告されてきた。しか し、土壌の成分がほぼ単一な組成を持つとは考えにくい。そこで、PEONの分子量に関する特性の詳細な検討を試みた。

成果の内容・特徴

  • 1/15Mリン酸緩衝液(pH7.0)で抽出したPEONをSDS-PAGEで分析するためには抽出された有機態窒素が、薄すぎるため、透析と凍結乾燥を用いた煩雑な脱塩・濃縮が必要であるが、限外ろ過膜付きスピンカラムを用いることで、簡便にPEONの脱塩・濃縮が可能となり、SDS-PAGEに供試することができる(図1,2)。
  • スピンカラムで濃縮したPEONをSDS-PAGEで分離すると、低分子から高分子にかけて連続的に分離の不鮮明な染色像を示す。2次元電気泳動では、等電点泳動による分離は起こらず、PEONの大部分が酸性側に濃縮される。このことから、PEONが負電荷を持つことが推定される(図2)。
  • 2種類の分画分子量(3,000、30,000)のスピンカラムで3つの画分に分画したPEONをサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーで分析すると、溶出位置の異なるピークが得られる(図3)。また、3つのピークの検出値を積算することで、未分画PEONと同じ形状のピークを得ることができる。
  • 分類の異なる土壌由来のPEONを3種類の分画分子量(5,000、10,000、30,000)のスピンカラムで分画し、各画分のOD280、タンパク量(Bradford法)、糖含量(フェノール硫酸法)を測定すると、いずれの土壌も、OD280、タンパク量、糖含量について類似した組成を示し、タンパク量は分子量5,000以上の画分で多い。(図4)。
  • 以上のことから、PEONは糖やタンパク様成分を含む構造を持つ多様な分子量の物質の混合物であり、PEONの分子量分布が連続的であるため未分画PEONは単一のピークを示すことが推定される。

成果の活用面・留意点

  • 本報告では、分画分子量の異なる市販のスピンカラムを用いて、3つまたは4つに分画した際のデータを示した。
  • 未分画PEON(スピンカラムでの濃縮や分画を行わない未処理のPEON)の推定分子量は文献値とは異なり約5,000であり、図3に示した以外の土壌についても同様であった。これは、ゲル担体や溶出液の塩濃度などに起因するものと考えられる。
  • 図2、図3については、図に示した土壌以外からも同様の結果が得られている。

具体的データ

図1 限外濾過膜付きスピンカラムを用いたPEONの濃縮と分画

 

図2 PEONのSDS-PAGEと2次元電気泳動銀染色像

 

図3 分画したPEONのゲルろ過クロマトグラフィー

 

図4 種類の異なる土壌由来PEONの各画文中の成分量

 

その他

  • 研究課題名:有機性資源の分解特性と分解生成物の作物生育に及ぼす影響の解明
  • 課題ID:06-04-04-01-02-05
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001∼2005年度
  • 研究担当者:渡邊修一、吉川弘恭