TriticumおよびAegilops属植物における胚乳澱粉の側鎖長分布

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

Triticum およびAegilops 属植物の胚乳澱粉の側鎖長分布には種内に変異が認められる。種間の変異は小さいため、節および属の間には明瞭な違いが認められない。これらの属の植物の澱粉には老化特性に影響を与える程度の側鎖長分布の変異が存在する。

  • キーワード:AegilopsTriticum、側鎖長分布、胚乳澱粉、パンコムギ
  • 担当:近中四農研・作物開発部・品質特性研究室
  • 連絡先:電話084-923-5381、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産(冬作)、作物・冬作物
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

澱粉の側鎖長分布は、糊化および老化特性に影響を与える。大量生産されるパン類製品では、食品添加物の使用により澱粉の老化を抑制し、製品の商品性を保持できる期間(シェルフ・ライフ)の確保・延長を図っている。しかし、消費者は加工食品に対して安全性および安心感を求める傾向があるため、食品添加物の利用は今後減少するものと予想される。それに対応するためには、主たる原材料である小麦粉の特性を改変することによりシェルフ・ライフの確保・延長を図る必要がある。澱粉の構造からみると、短い側鎖の割合が多く、長い側鎖の割合が少ない澱粉は老化しにくい性質があるので、そのような胚乳澱粉をもつ品種はパン類製品のシェルフ・ライフを確保・延長できる原材料として有用と考えられる。そこで、パンコムギおよび近縁のTriticum およびAegilops 属植物の胚乳澱粉の側鎖長分布を解析し、澱粉の特性を改変しうる側鎖長分布の変異の有無を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • パンコムギおよび近縁のTriticum およびAegilops属の全ての種(T. urartu を除く)における胚乳澱粉の側鎖長分布(表1)には種内に変異が認められる(図1)。 また、各側鎖の割合の相関行列をもとにした主成分分析の結果が示すように、種間の変異は相対的に小さく、節および属の間には明瞭な違いが認められない(図1)。
  • Triticum およびAegilops属植物の胚乳澱粉では、典型的なA鎖(重合度〈DP〉10-13)およびB1鎖(重合度20-23)に相当する側鎖の割合の変動が比較的少なく、重合度6-9の短い側鎖の割合の変動が大きい(図2)。
  • Triticum およびAegilops属植物の澱粉では、DP6-12の側鎖の割合は26.3-30.9%の範囲(差;4.6ポイント)(表1)、DP13-34は58.9-63.8%の範囲(4.9ポイント)、DP≧35は8.2-11.6%の範囲(3.4ポイント)で変動する。この差は、側鎖長分布の違いにより老化速度が速いことが報告されているパンコムギのモチ性系統あるいは登熟温度が高い試料と対照との差と同程度である。従って、これらの属の植物には澱粉の老化特性に影響を与える程度の側鎖長分布の変異が存在する。

成果の活用面・留意点

  • 澱粉の側鎖長分布が種間で類似しているので、パンコムギに耐病性等の遺伝子を近縁種から導入する場合にも澱粉の特性が著しく変化する可能性は低い。
  • パンコムギの品種系統間に近縁種と同程度の変異が存在する可能性があるので、既存の遺伝資源の調査が必要である。
  • パンコムギのモチ性系統は、ウルチ性系統と比べて、DP6-12の割合(%)が0.1-1.3ポイント少なく、DP≧35が0.3-1.7ポイント多いこと、登熟温度が高いものは、登熟温度が低いものと比べて、DP6-12の割合が2.7-5.4ポイント少なく、DP13-34が1.7-3.9ポイント多く、DP≧35が1.1-2.2ポイント多いことが報告されている。

具体的データ

表 1. TriticumおよびAegilops属植物における澱粉の側鎖長分布

 

図 1. 澱粉の側鎖長分布の主成分分析の結果

 

図 2. 各側鎖の割合(ピーク面積)と変動係数(CV%)の関係-全試料-

 

その他

  • 研究課題名:TriticumおよびAegilops属植物における胚乳澱粉の側鎖長分布の変異
  • 課題ID:06-03-08-01-16-05
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2005年度
  • 研究担当者:安井 健、佐々木 朋子(食総研)、松木 順子(食総研)
  • 発表論文等: (1) Yasui et al. (2005) Conference Book of XIII International Starch Convention (Moscow, Russia, June 21-23), 16. (2) Yasui et al. (2005) Variation in the Chain-length Distribution Profiles of Endosperm Starch from Triticum and Aegilops Species. Starch/Stärke, 57, 521-530.