マイクロインジェクション法を用いたボルバキア移植による産雌性単為生殖寄生蜂の作出

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要約

天敵寄生蜂などの産雌性単為生殖化を引き起こす細菌ボルバキアWolbachia はマイクロインジェクション法によって感染個体から非感染個体へ移植できる。タマゴバチ類では移植後数世代で産雌性単為生殖個体を得ることができる。

  • キーワード:細菌、ボルバキア、天敵寄生蜂、産雌性単為生殖化、マイクロインジェクション法
  • 担当:近中四農研・地域基盤研究部・虫害研究室
  • 連絡先:電話084-923-4100、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(病害虫)、共通基盤・病害虫(虫害)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

昆虫の共生細菌ボルバキアWolbachia は宿主である寄生蜂やアザミウマ類を産雌性単為生殖化(PI)する。害虫防除に利用する寄生蜂は殆ど雌であるし、寄生蜂の大量増殖は雌だけの方が効率がよ い。また、人為的に有用系統を作出する場合でも産雌性単為生殖のほうが利用しやすい。このため、ボルバキアによる産雌性単為生殖化は、寄生蜂などの天敵の 増殖、維持管理および利用方法の最適化にとってきわめて重要な課題である。そこで、PIボルバキア移植のためのマイクロインジェクション法の条件を検討する。

成果の内容・特徴

  • インジェクションは3Dマイクロマニュピュレーター(NarishigeM152)とマイクロインジェクター(Narishige IM-6)を備えたマイクロスコープ(NikonTMD300)を使って行なう。マイクロニードルは1×90mmのパイレックスガラスの毛細管をニードルピューラー(NarishigePN-3)で2段引きにより引き伸ばして作成する。1回めは72℃で、2回目は85℃で行なう。さらに、その針先は直径約7μmの角度のある先端になるようかみそりを使って切除する(図1)。マイクロニードルは流動パラフィンで満たされたテフロンチューブでマイクロインジェクターに接続する。
  • PIボルバキア感染タマゴバチの蛹をスライドグラス上の両面テープの片側に1頭置き、その隣に非感染タマゴバチ3∼5頭を置く(図2)。感染個体の腹部にマイクロニードルを刺し、マイクロインジェクターを操作し、PIボルバキアを含んだ体液を吸い込み、非感染個体の腹部に打ち込む。この手順で1時間に20∼30頭インジェクションを行なえる。
  • PIボルバキア感染率は移植された個体の世代が進むにつれ高くなる(図3)。この方法で移植後2世代めに産雌性単為生殖がおこる。

成果の活用面・留意点

  • 移植直後はPIボルバキアの個体内での密度が低く、産雌性単為生殖化はおこらないので、ボルバキア密度が高まるまで数世代維持する必要があると考えられる。
  • 本方法で得られた産雌性単為生殖個体の生殖機能などの諸特性を解明する必要がある。

具体的データ

図1 マイクロニードル(右)とタマゴバチの腹部(左)

 

図2 移植方法の手順

 

図3移植後の世代での羽化雌当たりのPIボルバキア感染率の変化

 

その他

  • 研究課題名:昆虫共生バクテリアを利用したタマゴバチ等天敵寄生蜂の産雌性単為生殖化技術の開発
  • 課題ID:06-08-02-*-13-05
  • 予算区分:生物機能
  • 研究期間:2004∼2008年度
  • 研究担当者:三浦一芸、世古智一、菊地淳志、森井智裕(広島大学)、渡部真也(広島大学)