傾斜地の低コスト施設を利用した夏秋トマト栽培を核とする栽培体系

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要約

平張型傾斜ハウス及び傾斜地用養液供給装置を使用した夏秋トマト栽培体系と、これに冬作物を付加した周年利用体系である。夏秋トマト作では、慣行の簡易雨よけ栽培と比較して栽培期間が前後に延長できて収量が増え、所得増となる。ハウス周年利用のための冬作導入により冬春季の所得も得られる。

  • キーワード:傾斜ハウス、傾斜地用養液供給装置、夏秋トマト、冬作
  • 担当:近中四農研・中山間地域施設園芸研究チーム、環境保全型野菜研究チーム
  • 連絡先:電話084-923-4100、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・農業環境工学、共通基盤・作業技術
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

中山間傾斜地域では、一般に地力が低い、作業がきついなどの農業生産に不利な面が多く、生産性が平坦地に比べて劣る。このため、規模拡大が困難で、経営が不安定である。このような栽培に不利な傾斜地にハウス・養液供給装置による施設栽培を導入し、安定・多収により土地生産性の向上を図り、また、ハウス周年利用体系の構築、省力技術開発を行うことにより、傾斜地域農家の経営安定を目指す。

成果の内容・特徴

  • この体系は足場用鋼管を構造部材とした安価・丈夫な平張型傾斜ハウス(H11、H17)(資材費約340万円/10a、排水溝を含む)と傾斜地で均一な点滴給液ができる傾斜地用養液供給装置(H15)による夏秋トマトの養液栽培(H16、H17)が基幹技術である。養液栽培では自根苗が使えるため、比較的容易に苗生産を行える安価な育苗装置(経営計算に含む)・技術(H16)を確立している。また、防虫ネットを展張したハウスの暑熱緩和対策として天窓設置技術及び簡易細霧冷房技術(H16)を開発している。冬作として、傾斜ハウス利用のチコリー及びコゴミのふかし栽培、セルリー養液栽培の技術を開発している。(図1)、(注:()内平成年度は関連成果情報の年度、以下同)
  • 本体系の支援技術として、土揚げ機(H16)(H17市販化)、モノレール対応クローラ(MC)運搬車(H17)、生産履歴作成のための簡易作業記録システム(H17)などを開発している (図1)。
  • 本体系の核となる夏秋トマトの養液栽培は、地域慣行の簡易雨よけ栽培と比較して収穫期間が前後に約2ヶ月延長されるため、収量水準は、慣行簡易雨よけ栽培8t/10aの75%増の14t/10aになる。これらにより、約94%の販売額増加、約157%の所得増加が期待できる。(表1、図2)
  • 夏秋トマト新体系では4月下旬~5月上旬に定植を行い、11月末~12月上旬まで収穫が行われる。新たに導入できる冬作のチコリー及びコゴミのふかし栽培、セルリーの養液栽培の作型を図2に示す。
  • 10a当たりの労働時間が年間2000~2500時間などを目安に面積を設定し、チコリー、コゴミ、セルリーを20m2、30m2、950m2で合計10a栽培した場合には、労働時間は500時間程度で、およそ350千円の所得を得ることができる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本体系は、徳島県東みよし町の山腹利用型畑作地域(標高300~350m)で実証試験を行ったものであり、傾斜地域の施設栽培に適用できる。
  • 夏秋トマト作を核としており、冬作物の選定に当っては、労働力、収益性等を考慮する。
  • 傾斜ハウス・排水路、傾斜地用養液供給装置、育苗装置は自作も可能であり、関連のマニュアルを作成している(近中四農研ホームページ技術情報マニュアル傾斜地野菜関連 http://www.naro.affrc.go.jp/warc/original_contents/tech/category2/index.html)。

具体的データ

図1 傾斜ハウス・傾斜地養液供給装置による夏秋トマトを核とする栽培技術体系

表1 各栽培体系における経営費及び収益性

図2 傾斜施設周年利用のための夏秋トマト及び冬作物の作型

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
  • 課題ID:213-c
  • 予算区分:傾斜地特性野菜
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:伊吹俊彦、東出忠桐、笠原賢明、柴田昇平、畔柳武司、吉川弘恭、木下貴文井上久義、
                      中元陽一、寺元郁博、藤野雅丈、網藤芳男、迫田登稔(東北農研)、武内徹郎(徳島農研)、
                      小角順一(徳島農研)
  • 発表論文等:伊吹俊彦(2006)農業電化59(13)18-21
                      東出忠桐(2006)農耕と園芸2006年5月号166-169