傾斜地域に対応した養液栽培体系における夏秋トマト作の経済性評価
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要約
平張型傾斜ハウスと養液栽培装置を組み合わせた夏秋トマト栽培は、慣行の雨よけ栽培に比べ、収量で約75%、販売額で約94%、所得で約157%それぞれ増加する。また14.0t/10aの収量水準は、農業所得の確保に必要な7.3t/10aを上回り、慣行体系と同じ単価でも9t/10a以上ならば農業所得を確保できる。
背景・ねらい
四国傾斜畑地域における夏秋トマトの簡易雨よけ栽培(以下、慣行体系)は、病虫害、品質低下、短い収穫期間、天候の影響を強く受ける、などの問題がある。これらの対応策として、徳島県H町K集落(標高300~600mで傾斜20度以上の畑も有する)において、平張型傾斜ハウス(資材費約339万円/10a)と傾斜地形に対応した養液栽培装置(資材費約113万円/10a)による夏秋トマトの栽培体系を開発した。本情報ではこの栽培体系(以下、新体系)の経済性を示す。
成果の内容・特徴
- 新体系では慣行体系に比べ作型が前後に約2ヶ月拡大する。また慣行体系よりも収量が約6t/10a(約75%)増加し、誘引、収穫、調製など労働時間が約510h/10a増加する。しかしその時間増加を含めても、時間当たり農業所得は約260円/h(約89%)増加する(表1)。
- 新体系の経営費(ハウス施設・養液栽培装置を含む)は約237万円/10aで、慣行体系の経営費は約135万円/10aである。3作の現地実証試験より、新体系は収量が約14.0t/10a、平均単価が244円/kg、販売額が約342万円/10a、などと試算され、一方、慣行体系は収量が約8.0t/10a、平均単価が220円/kg、販売額が約176万円/10aである。また3作の実績では平均単価が約24円/kg(約11%)上昇した結果、販売額は約166万円/10a(約94%)増加し、農業所得は約64万円/10a(約157%)の増加が見込まれる(表1)。
- 新体系の栽培モデルにおける販売額、経営費を基に損益分岐点分析を行った結果、新体系において農業所得が確保できる収量は約7.3t/10a(単価244円/kgの場合)となる(図1)。
- 単価によって損益分岐点は移動するため、実証試験経営の複数年における養液栽培トマトの単価変動(221~308円/kg)を基に4つの単価水準を設定し、単価変動にともなう新体系の損益分岐点収量の移動を示す(図2)。このうちの最低単価220円/kg(慣行体系の平均単価に等しい)の場合でも、農業所得を確保するのに必要な損益分岐点収量は約9t/10aである。
成果の活用面・留意点
- おもに傾斜地形において簡易雨よけ施設などで夏秋トマトを栽培する地域に適用できる。
- 各体系における施設建設時間は畑の傾斜や形状などによって変動するため、実証試験現地での事例データを参考として示すが、損益分岐点分析にあたっては経費に含めていない。
- 栽培体系の変更にともなう労働環境の質的変化が観察されるが、本情報では評価基準を経済性に限定しているため労働負荷等に関しては考慮していない。
- 現地実証経営の3戸の主な農業労働力がいずれも65歳以上であることから自家労賃単価を615円/h(徳島県最低賃金)と仮定しており、新体系において「農業資本利潤(農業所得-自家労賃見積額)」を確保するには、単価244円/kgで収量約15.1t/10aが必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
- 課題ID:213-C
- 予算区分:傾斜地特性野菜
- 研究期間:2004~2006年度
- 研究担当者:迫田登稔(東北農研)、東出忠桐、伊吹俊彦、笠原賢明
- 発表論文等:迫田ら(2006)農及園、81(8)、:863-876