作物群落の熱収支を考慮したCFD解析による温室内環境の推定

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要約

作物群落の通気抵抗のみを考慮したCFD解析に、作物群落の熱収支モデルを組み込むことにより、温室内空気と作物群落の間の熱移動を表現できる。モデルを組み込んだCFD解析は、作物が栽培されている温室内の気温分布の特徴を推定できる。

  • キーワード:CFD、数値流体力学、シミュレーション、温室、自然換気、熱収支
  • 担当:近中四農研・中山間傾斜地域施設園芸研究チーム
  • 連絡先:電話084-923-4100、電子メールwenarc-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・農業環境工学、共通基盤・作業技術、野菜茶業・野菜栽培生理、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

温室周辺および内部の気流・気温分布等を推定できるCFD(Computational Fluid Dynamics、数値流体力学)手法は、自然換気を始めとした温室の環境制御手法の設計、評価を迅速化するツールとして注目を集めている。しかし、従来のCFD解析は作物群落の通気抵抗のみを考慮した事例に留まっており、作物群落への入射日射、温室内空気との間に生じる対流伝熱と蒸散による潜熱移動が考慮されていないため、屋外風速が弱く、作物群落の熱収支が関与した温度差換気の卓越するケースの解析に適さない。
そこで、作物群落の通気抵抗のみを考慮したCFD解析に作物群落の熱収支モデルを組み込み、実際にトマト栽培が行われている温室内および周辺の気流・気温分布性状を解析し、温室内気温分布の計算値と実測値を定量・定性的に比較することによって、本解析の計算精度を検証する。

成果の内容・特徴

  • 作物群落の熱収支モデルは、入射日射、対流伝熱、蒸散による潜熱移動から構成される。内部日射垂直分布、葉面境界層抵抗、気孔抵抗は、作物群落として設定したコントロールボリュームの座標、風速、絶対湿度より算定する(式1、表1)。
  • 式1の熱収支式に従って、コントロールボリューム毎に設定した葉面温度を算定する。得られた葉面温度を用いて再計算した対流伝熱量および蒸散量を、エネルギー保存式と水蒸気の輸送方程式のソース項として与えることによって、温室内空気と作物群落の間の熱・水分移動を表現する。
  • 温度差換気の卓越する弱風時において、温室内気温の計算値の2乗平均平方根誤差(RMSE)は、作物群落の熱収支を考慮した解析では1.4℃、考慮しない解析では2.0℃であり、作物群落と温室内空気の間の対流伝熱が考慮されることにより、通気抵抗のみを考慮した解析より適切な結果が得られる(図1)。
  • 作物群落の熱収支モデルを組み込んだCFD解析は、温室内の気温が風上側から風下側に向かって徐々に上昇し、温室上部に気温の高い領域が発生する実測結果の特徴を推定できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、従来のCFD解析と同様、温室構造、天窓・側窓の開閉、防虫ネットの有無・粗密等が温室内気温に与える影響の比較に活用できる。
  • 作物群落の形状、葉面積密度、気孔抵抗を変更することによって、キュウリ等の他の作物が栽培される温室内および周辺の気流・温度分布の解析に対応できる。
  • 解析にあたっては、あらかじめ、屋外の気温、相対湿度、風向および風速、温室内の全天日射量および床表面温度、作物個体群の葉面積密度を、推定や実測によって別途用意する必要がある。
  • CFD解析の計算精度は、選択した乱流モデル、壁面境界条件等の影響を受ける。

具体的データ

(式1) 作物群落の熱収支式(Roy ら、2005)

表1 熱収支式の各変数の計算式(Roy ら、2005)

図1 温室内気温の実測値とCFD解析による計算値

図2 防虫ネットを展張したトマト養液栽培温室の中央断面の気温の計算値と実測値(8月9日)

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
  • 課題ID:213-c
  • 予算区分:傾斜地特性野菜
  • 研究期間:2005~2006年度
  • 研究担当者:畔柳武司、中元陽一、田中宏明、柴田昇平、伊吹俊彦、東出忠桐、笠原賢明、吉川弘恭、
                      木下貴文、長﨑裕司、菅谷博