ウンシュウミカン樹の水分状態を簡易に判別できる「水分ストレス表示シート」
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要約
「水分ストレス表示シート」は、樹体の水分状態を反映して葉裏面から放出される水分を塩化コバルトの吸湿による色変化として捕らえ、視覚的に樹体の水分状態を推定することができる。
- キーワード:ウンシュウミカン、水分ストレス、蒸散速度、水ポテンシャル、判別法
- 担当:近中四農研・次世代カンキツ生産技術研究チーム
- 連絡先:電話084-923-4100
- 区分:近畿中国四国農業・果樹
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
ウンシュウミカン樹の水分状態を把握することは、夏場にかん水を行う判断をするために必要である。しかし、一般に生産者は樹体の
水分状態を葉の巻き、葉色の低下、旧葉の落葉、あるいは果実の肥大速度の減少などの変化から判断しており、各生産者の主観的な判断に拠るところが大きい。
このため生産者によっては不適切な判断による水管理により、十分な果実品質の向上が得られない場合も多い。そこで、生産現場で利用できる安価で簡易な水分
状態(水分ストレス)の判別法の確立を図るため、水分ストレス状態での樹の蒸散速度の低下に着目した水分ストレスの簡易な判別法を開発し、その実用性を検
討する。
成果の内容・特徴
- 樹体の水分ストレス状態は、葉の水ポテンシャル(Ψmax)を指標として考えられている。水ポテンシャルの異なる葉では、日中の蒸散速度の変化に差異が見られ、蒸散速度の違いから水分ストレス状態を判別できると考えられる(図1)。かん水が必要な夏季(8月~9月)、水分ストレス状態が葉の蒸散速度の差異として顕著に表れる正午前後約2時間の間に、樹冠の赤道周囲の南側で日射が十分に得られている葉を選択して評価すれば、水分ストレス状態の判別が可能である。
- 夏季の葉の水ポテンシャルと日中の蒸散速度の関係から、ウンシュウミカン樹の水分ストレス状態の判別指標として、蒸散速度3.0 μg・cm-2s-1を蒸散速度の目安の閾値とする。蒸散速度が3.0 μg・cm-2s-1以上であれば、樹は強い水分ストレス状態ではないと判断できる(図2)。
- 「水分ストレス表示シート」を評価対象の選択した葉に貼り付けると(図3)、水分ストレス状態が弱い樹の葉では、蒸散により葉表面から出た水分量を吸水して、およそ5分程度で青から淡赤へ色が変わる(図4)。水分ストレス状態が強い樹の葉では、蒸散により葉表面から出る水分量は少なく色の変化が少ないことから、「水分ストレス表示シート」の色の変化から水分ストレス状態が判別できる。
- 廉価(シートは使い捨て、100円未満/枚を想定)な資材を用いた樹の植生状態を損なわない非破壊的な方法で、必要に応じて迅速簡便に測定できる。
成果の活用面・留意点
- 水分ストレス表示シート1枚の色変化から、貼り付けた樹体の水分ストレス状態を評価することはできない。1樹あたり複数枚(3枚を想定)の葉に貼り付けて評価し、後日、再評価することにより、より正確に樹体の水分ストレス状態を評価できる。
- 秋季(9月下旬以降、平均気温25.3±2.6℃)になると、弱水分ストレス樹の蒸散速度が低下して評価が困難になるため、本手法の使用は夏季に限られる。
- 蒸散速度を色の変化として視覚的に捉えることができることから、他の作物においても蒸散速度や水分状態の変化を推定するために利用できる。
- 実用化のためには、色の判別の個人差をなくす対策や、貼付け時間の短縮、最適な貼付け枚数、シートの見落とし防止策などの実施方法の検討が必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:樹体および園地における樹体の水分ストレスの診断とその利用法の開発
- 課題ID:213-f
- 予算区分:交付金プロ(カンキツ連年生産)
- 研究期間:2004~2007年度
- 研究担当者:星 典宏、島崎昌彦、森永邦久、草塲新之助
- 発表論文等:
1)星ら(2007)「植物用体内水分ストレスシートと植物水分ストレス測定法」特許公開 2007-232572
2)星ら(2007) ウンシュウミカン樹における水分状態の簡易把握のための“水分ストレス表示シート”の開発 園芸学研究 6(4):541-546