気化潜熱を利用して培地昇温を抑えイチゴ高設栽培の収穫の中休みを軽減する

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要約

イチゴ高設栽培の栽培槽に透水性シートを採用し、送風によって気化潜熱を奪う仕組みを加えると、定植後の残暑期に日中の培地温度を平均3~5℃程度低下させ、一次腋花房の出蕾・開花を5日程度、果実収穫は10日程度早めることができる。

  • キーワード:イチゴ、気化潜熱、連続出蕾性、収穫の中休み、高設栽培
  • 担当:近中四農研・環境保全型野菜研究チーム
  • 連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・野菜
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

花芽分化誘起処理により頂花房を早期に分化させる促成作型のイチゴ栽培では、定植期の前進化および昨今の気候の温暖化にともな い、定植後に高温に遭遇する期間が長くなり、頂花房と一次腋花房間の収穫の中休みが問題となっている。特に高設栽培では、当該期間中の培地温度が高くなり やすく、収穫の中休みが顕著に現れる。すでに普及している高設栽培装置に低コストで容易に組み込める、気化潜熱を利用した培地の昇温抑制法を開発し、昇温 抑制の程度と、収穫の中休み軽減に対する有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 本方法は、不織布等の透水性シートを栽培槽に採用している高設栽培方式に応用可能な培地の昇温抑制法である。栽培槽の外側に 空間を設けて防水透湿シートを張り、送風ファンから直接、または20cm程度の間隔で通気孔を設けたポリダクト(直径約10cm)を空間に敷設して、栽培 槽に向けて送風する(風速1~2m/s)ことで、常時湿潤状態にある栽培槽表面の温度を低下させ、間接的に培地の昇温を抑制する(図1)。防水透湿シートには余剰水を回収して循環させるために傾斜がついている。送風ファンは、定植時からハウス内の1日の平均気温が20℃以下となる頃まで(試験地では10月中旬)を目安として、1日12時間(午前8時から午後8時など)程度作動させる。
  • 本方法を用いて培地の昇温抑制を行った場合、図2に示すとおり、促成栽培イチゴの定植後の残暑期において、本方法を用いない慣行栽培に比較して、日中平均3~5℃程度、培地温度を下げることができる。
  • 本方法を用いた培地の昇温抑制により、一次腋花房の出蕾が5~10日、果実収穫が10日程度早まり、その結果、頂花房と一次腋花房間の収穫の中休みを軽減することができる(図3、図4)。
  • 本方法を、栽培槽が透水性シートで形成されている高設栽培方式へ導入する場合、10a当たりの設置コストは15万円程度であり、本装置を50日間(1日12時間)作動させた場合の電気代は約2万円である。(ただし、送風には既設の暖房機の送風機能を利用した場合を想定)。

成果の活用面・留意点

  • 試験地は京都府綾部市で、定植時より雨よけハウス内で試験した結果である。使用した品種は「紅ほっぺ」であり、「さちのか」においても同様の効果が得られる。
  • 本方法は、花芽分化誘起処理にて頂花房を分化させた苗を8月中下旬頃から定植する促成作型を前提とした技術である。
  • 暖房機が既設の場合はその送風機能を活用する。暖房機を設置していない場合は、別途送風用のファンが必要である。その他、本方法を利用するに当たり慣行の栽培管理を特に変更する必要はない。
  • 防水透湿シートは、余剰水の回収がスムーズに行われるよう設置時の傾斜に注意する。また、耐水性の低下などから3年での交換を目安とする。

具体的データ

図1 培地の昇温抑制機能を備えたイチゴ高設栽培装置の概略 図2 培地温度の推移

 

図3 培地の昇温抑制が一次腋花房の出蕾株率に及ぼす影響 図4 培地の昇温抑制が一次腋花房の収穫開始期に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地における環境調和型野菜花き生産技術の開発
  • 課題ID:214-u
  • 予算区分:交付金プロ(気候温暖化)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:山崎敬亮、熊倉裕史、池田敬(明治大農)
  • 発表論文等:
    1)Ikeda T. et al. (2006)Acta Hort. 708:393-396.
    2)Ikeda T. et al. (2007)HortScience 42:88-90.
    3)山崎ら(2008)近中四農研報、7:35-47.