小麦加工食品の使用品種表示の確認に利用できるSSRマーカー

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要約

小麦加工食品の使用品種表示の確認を目的として開発したSSRマーカー10組を利用して、小麦58品種(国内41、国外17)の遺伝子型カタログから、国内品種と国外品種を判別できる。国内品種間では26品種を判別し、15品種を5グループ化する。

  • キーワード:コムギ、加工食品、品種判別、SSRマーカー
  • 担当:近中四農研・品種識別・産地判別研究チーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

日本における小麦の年間消費量は約600万トンに及ぶが、自給率は14%程度に留まり、そのほとんどが輸入に依存している状況にある。しかし、国産小麦は消費者の地元産志向の高まりから需要が増加しており、各地で地域独自の品種が開発、利用されている。「さぬきの夢2000」のような地域特産小麦の「100%使用」表示のある商品が数多く流通していることから、食品表示の信頼性を確保するため、特定品種の使用を確認する技術が必要である。そこで、一般的な流通形態が加工食品である小麦の品種を判別するため、植物体だけではなく加工食品にも適用可能なSSR (Simple Sequence Repeat) マーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 10組のSSRマーカー(図1)はオオムギ、イネ、ダイズ、ソバ、トウモロコシのDNAでは増幅せず、小麦由来のDNAを検出する。
  • これらのマーカーにより、少数の例外(増幅なし)を除き、1品種につき1つの増幅産物が得られる。その増幅長は小麦58品種(国内41、国外17)で143~317bpであるため、加工によって断片化した食品由来のDNAでも検出できる(表1)。
  • PCR反応は、フォワードプライマーの5’末端に蛍光を付加したプライマー対を用い、図1に示すPCR反応液、反応サイクルで行う。増幅産物はキャピラリー型電気泳動装置3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems, 以下ABI)によって検出し、遺伝子解析ソフトウェアGeneMapper(ABI)を用いて解析する。
  • 遺伝子型カタログから国内品種と国外品種を判別できる(表2)。国内品種間では26品種を個別に判別できる。残り15品種は5グループ化されることから、2~4品種で構成される各品種群とその他の品種を判別できる。
  • 特定品種の100%使用表示がある市販の加工食品からDNAを抽出し供試すると、表示に合致した品種名を確認できる(図2の1と2、一例)。複数品種がブレンドされている場合は、複数の増幅産物が検出される(図2の3、一例)。

成果の活用面・留意点

  • 上記のPCR反応試薬、機器以外を使用する場合は、反応条件の検討が必要である。
  • 4bp以上の増幅長差を示す遺伝子型をもつ品種間では、蛍光プライマーを用いないアガロースゲル電気泳動法による判別も可能である。
  • 2品種を混合して調製した模擬混入サンプルを用いた解析結果から、サンプルに含まれる他品種の混入比率が1割未満では検出されない場合がある。
  • 遺伝子解析ソフトウェアによるデータの確認では、主ピークより低いピークが決まった位置に出現するため、そのことを考慮して判別を行う。
  • 「農林61号」など育成年の古い品種では品種内多型が存在する可能性があるため、都道府県が所有する原種のパターンを調査する必要がある。

具体的データ

図1  10組のSSRマーカーのプライマー情報とPCR反応条件

表1  10組のSSRマーカーを用いた小麦58品種におけるPCR増幅長(記号'A~J'および'-'は表2の記号に対応)表

表2  10組のSSRマーカーによる小麦58品種の遺伝子型カタログ

図2  SSRマーカーTaSE123による市販加工食品から抽出したDNAのPCR増幅パターン

その他

  • 研究課題名:農産物や加工食品の簡易・迅速な品種識別・産地判別技術の開発
  • 課題ID:324-a
  • 予算区分:食品
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:藤田由美子、福岡浩之(野菜茶研)、矢野博
  • 発表論文等: 1) 藤田ら「小麦の品種識別法」特開2008-237078.特許第4114887号.
                        2) Fujita Y. et al. (2009) Breed. Sci. 59 (2) :159-167