製粉歩留の高い「きたほなみ」は外表皮と胚乳細胞壁が薄い
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要約
小麦種子の微細構造と製粉性の関連を走査型電子顕微鏡と蛍光顕微鏡を用いて解析することができる。製粉歩留が高い「きたほなみ」はふすま成分である外表皮と胚乳細胞壁が薄い。
- キーワード:コムギ、製粉性、ふすま、外表皮、胚乳細胞壁
- 担当:近中四農研・パン用小麦研究近中四サブチーム、めん用小麦研究近中四サブチーム、道立北見農試・作物研究部・麦類科
- 代表連絡先:電話084-923-4100
- 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
国産小麦の加工適性の向上のためには、外国産小麦に比べて劣る製粉性を改良する必要がある。このためには、複雑な形質である製粉性に関わる要因の解明が重要である。すでに、小麦胚乳の細胞壁多糖類の主要成分であるアラビノキシラン含量が製粉歩留に影響を与えることが明らかになっている(加藤ら2002、高田ら2004)が、細胞壁多糖類量と細胞壁の厚さの関連や小ふすま中の胚乳細胞壁の存在形態などは明らかではない。そこで製粉歩留が高い「きたほなみ」と製粉歩留が低い品種の種子の微細構造を比べ、細胞壁構造と製粉歩留の関連を明らかにすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 製粉歩留の高い「きたほなみ」は、北海道(北見)および広島県(福山)で栽培しても、各地域の製粉歩留が低い品種「チホクコムギ」(北見)、「農林61号」(福山)と比較して、大ふすまと小ふすまともに少ない(表1)。
- 低真空条件で観察できる走査型電子顕微鏡(SEM)により、前処理無しに小麦種子横断面の微細構造を観察できる。「きたほなみ」は、外皮のうち最外層の外表皮が薄く、また胚乳中心部の胚乳細胞壁が観察困難なほど薄い。一方、「農林61号」は外表皮、胚乳細胞壁が共に厚く(図1)、「チホクコムギ」では外表皮が薄く、胚乳細胞壁が厚い傾向である(画像省略)。
- 小麦種子横断面を2% ドデシル硫酸ナトリウムと1% 2-メルカプトエタノールを含む溶液で洗浄し、表面のデンプンとタンパク質を除去した後、0.2M アンモニアに浸漬し蛍光顕微鏡(UV励起)で観察することで、細胞壁成分の1つであるフェルラ酸類を含む細胞壁構造を観察できる(図2)。「きたほなみ」は胚乳細胞壁の蛍光が弱く、フェルラ酸類が少ない。開花後2?3週間目の未熟種子を用いると洗浄すること無しに同様の違いを観察できる。
- SEMによる小ふすまの観察により、小ふすまが多い「農林61号」では、小ふすま中に胚乳細胞壁に結合した胚乳細胞質断片が多く見られる(図1)。一方、「きたほなみ」の小ふすま中では、外皮と糊粉層の断片が多く見られ、断片化された胚乳細胞壁と胚乳細胞由来のデンプンが一部に見られる(図1)。この違いは、「農林61号」では胚乳細胞壁が厚く胚乳細胞が小さく破砕されにくいため篩(ふるい)を通過しにくく、胚乳細胞が小ふすま画分に混入し易いことによる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 外表皮と胚乳細胞壁の厚さを1粒単位で判別することで、製粉すること無しに「きたほなみ」と同様に製粉性の優れる系統・品種を選抜できる可能性がある。
- 外表皮は雨害などにより空隙が出来ることがあり、その厚さの測定には注意が必要である。
- 硬質小麦でも製粉歩留が低いものは、胚乳細胞壁が厚く同様に篩を通過しにくい。
具体的データ




その他
- 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
- 課題ID:311-c
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2008年度
- 研究担当者:池田達哉、谷中美貴子、高田兼則、吉村康弘(道立北見農試)