コムギへのオオムギ属5H染色体の導入は子実硬度を低下させる
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要約
コムギにオオムギ属5H染色体を添加した系統はコムギ親よりも子実硬度が低く千粒重も大きい。添加するオオムギ属5H染色体の由来により、子実硬度の低下程度が異なり、オオムギ近縁野生種(H. chilense)の5H染色体を添加した系統では低下程度が大きい。
- キーワード:コムギ、オオムギ、5H染色体、硬度、千粒重
- 担当:近中四農研・パン用小麦研究近中四サブチーム
- 代表連絡先:電話084-923-4100
- 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
コムギの子実硬度は小麦粉の粒径や損傷デンプン含量などの加工適性に関係する重要な形質である。コムギの子実硬度に関与する遺伝子として、コムギの5D染色体短腕に座乗するピュロインドリン遺伝子が知られている。オオムギの5H染色体はコムギの5D染色体の同祖染色体にあたり、ピュロインドリン遺伝子に対応する遺伝子として、ホルドインドリン遺伝子の存在が知られている。コムギの子実硬度の変異を広げ、新たな用途開発に結びつけることを目的として、コムギにオオムギ属の5H染色体を添加した系統を用いて、オオムギ属の5H染色体の子実硬度への効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- コムギ-オオムギ5H染色体添加系統は、コムギ「Chinese Spring」にオオムギ(Hordeum vulgare)「Betzes」の5H染色体を添加した系統、コムギ「新中長」に野生オオムギ(H. vulgare ssp. spontaneum)の5H染色体を添加した系統、コムギ「Chinese Spring」にオオムギ近縁野生種(H. chilense)の5H染色体を添加した系統の3系統である。いずれの5H添加系統でもピュロインドリンとホルドインドリンのタンパク質は共に発現している。
- コムギ-オオムギ5H染色体添加系統の子実硬度は2008年産のオオムギ(Hordeum vulgare)の5H添加系統を除き、それぞれのコムギ親よりも低く、子実が軟らかい(表1、表2)。5H以外の染色体の添加系統では子実硬度の低下は見られない(データ省略)。
- オオムギ属5H染色体の添加による子実硬度の低下程度は、コムギ親の違いはあるものの、オオムギ属の由来により異なり、オオムギ近縁野生種(H. chilense)の5H染色体の添加による子実硬度の低下が最も大きい(表1、表2)。
- コムギ-オオムギ5H染色体添加系統の千粒重はそれぞれのコムギ親よりも大きい。千粒重はコムギ親や年次による影響を受けるが、いずれのオオムギ属5H染色体の添加においても千粒重が増加する(表1、表2)。本試験においては千粒重と子実硬度の間に明瞭な関係は認めらない(データ省略)。
成果の活用面・留意点
- 試験に供試した添加系統はナショナルバイオリソースプロジェクトKOMUGI(http://www.shigen.nig.ac.jp/wheat/komugi/top/top.jsp)から入手できる。
- コムギの子実硬度が下がると、より小さい粒径の小麦粉の製造が可能となる。
- コムギの子実硬度を低下させる方法として、オオムギ属(特にオオムギ近縁野生種(H. chilense))の5H染色体を利用できるが、コムギに導入した5H染色体は必ずしも安定ではないため、世代ごとに種子の純度を確認する必要がある。
- オオムギ属5H染色体の導入により、子実硬度が低くなる、千粒重が大きくなる以外の特性の変化が起こる可能性がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
- 課題ID:311-c
- 予算区分:異分野融合
- 研究期間:2007~2008年度
- 研究担当者:谷中美貴子、高田兼則、池田達哉