サクラネチンは脂肪細胞分化および脂肪細胞へのグルコース取り込みを促進する
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要約
桜皮やイネ葉、プロポリスなどに含まれるサクラネチンは脂肪細胞分化を促進する。その作用機序として脂肪細胞分化に必須の核内受容体PPARγの発現を著明に亢進することが挙げられる。また、脂肪細胞内へのグルコースの取り込みも促進する。
- キーワード:サクラネチン、脂肪細胞分化、肥満、メタボリックシンドローム
- 担当:近中四農研・特産作物機能性グループ、特命チーム員(健康機能性研究チーム)
- 代表連絡先:電話0877-62-0800
- 区分:近畿中国四国農業・作物生産
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
内臓脂肪の蓄積は肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症といったメタボリックシンドロームの要因になる。肥満において脂肪組織は肥大した脂肪細胞を多く含み、これらの細胞はインスリン抵抗性を引き起こす物質を分泌する。この状態を防ぐには、正常な機能を持つ小型脂肪細胞の分化を促進することが重要であり、その機能を持つ成分はメタボリックシンドロームの予防、改善に有効であると考えられる。
成果の内容・特徴
- サクラネチンは、前駆脂肪細胞3T3-L1に対して常法で用いられる分化誘導剤共存下、あるいは非共存下で脂肪細胞分化の指標となる細胞内トリグリセリドの蓄積を濃度依存的に促進する(図1)。
- サクラネチンは脂肪細胞分化に必須かつ脂肪細胞機能発現に重要な核内受容体PPARγのリガンド活性は示さない(図2)。すなわちPPARγに対する特異的なリガンドである糖尿病薬ロシグリタゾンとは異なり、サクラネチンによる脂肪細胞分化促進効果はPPARγによる転写活性化にあるわけではない。
- 分化誘導剤による脂肪細胞分化においてPPARγ2遺伝子の発現は上流の転写因子C/EBPβの遺伝子発現に続いて起こるが、サクラネチンはC/EBPβの遺伝子発現の亢進を伴わずにPPARγ遺伝子の発現を亢進させ、脂肪酸結合タンパク質aP2をはじめとした脂肪細胞機能に関連した遺伝子の発現上昇を導く(図3A)。このPPARγ遺伝子発現上昇効果はC/EBPβやPPARγの発現・機能を抑制している転写因子GATA-2の発現を抑制することにあると考えられる(図3B)。
- サクラネチンは分化した脂肪細胞のグルコース取り込みを促進する(図4)。この効果はインスリンの存在下、あるいは非存在下でも観察される。
成果の活用面・留意点
- サクラネチンは脂肪細胞分化とグルコース取り込みを促進することより生体内において血糖を正常に維持することが期待できる。
- 本結果は培養細胞での結果であり、実際に動物に対しても効果があるかどうかはさらに詳しく調べなければならない。
具体的データ




その他
- 研究課題名:かんきつ・りんご等果実の機能性成分の機能解明と高含有育種素材の開発
- 課題ID:312-c
- 予算区分:基盤、委託プロ(食品)
- 研究期間:2006-2010年度
- 研究担当者:齋藤武、阿部大吾、関谷敬三
- 発表論文等:Saito T. et al. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 372 (4):835-839