小麦ふすまの自己消化によるアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの製造法

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要約

小麦ふすまを水に懸濁し、pH3.2、40°Cで保温すると、自己消化反応によりアンジオテンシン変換酵素の阻害ペプチドが生成される。自己消化液には、新規なイソロイシルグルタミルプロリンを含む6種類の阻害ペプチドが内在する。

  • キーワード:コムギ、ふすま、自己消化、ペプチド、アンジオテンシン変換酵素、血圧
  • 担当:近中四農研・めん用小麦研究近中四サブチーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

我が国におけるふすまの生産量は、年間130-160万トンにのぼる。このほとんどは家畜の配合飼料として利用されるが、収益性が低いため、価値を付与する技術開発が望まれている。ふすまを水に懸濁すると自己消化反応が起き、ペプチドが遊離する。ペプチド画分は、血圧を上昇させる代謝系であるレニン・アンジオテンシン系のアンジオテンシンI変換酵素(ACE)に対する強い阻害活性を示す。そこで、自己消化反応条件を確立し、ペプチドの構造および生成量を明らかにすることにより、ACE阻害ペプチドの生産素材としてふすまの有効利用を目指す。

成果の内容・特徴

  • 小麦ふすまの自己消化反応を利用したACE阻害ペプチドの製造法は、内在性のプロテアーゼを利用した手法であり、低コストかつ簡易操作という特徴をもつ。
  • テストミル小ふすまからのACE阻害ペプチドの自己消化反応条件は、pH3.2、40°C、12時間の反応条件が好適である(図1)。
  • 上記条件で反応後、自己消化物をODSカラムクロマトグラフィーで粗精製したペプチド画分は、小ふすま、大ふすまの順にACEの強い阻害活性を示す(表1)。
  • 粗精製画分の大ふすま、小ふすまからの収量は、ともに約3%である(表1)。
  • 小ふすまからのACE阻害ペプチドの生成は、アスパラギン酸プロテアーゼの阻害剤であるPepstatin Aおよびセリンプロテアーゼの阻害剤であるPMSFにより抑制されるが、システインプロテアーゼの阻害剤であるE-64およびメタロプロテアーゼの阻害剤であるEDTAでは、ほとんど抑制されない。従って、阻害ペプチドの生成には、アスパラギン酸プロテアーゼが主要な役割を果たし、セリンプロテアーゼの一種であるカルボキシペプチダーゼの一部も関与する(表2)。
  • 小ふすま100gから、トリペプチドのロイシルグルタミルプロリンが約15mg、イソロイシルグルタミルプロリンが約15mg、ロイシルアルギニルプロリンが約13mg、ジペプチドのバリルチロシンが約19mg、イソロイシルチロシンが約6mg、およびスレオニルフェニルアラニンが約3mg、それぞれACE阻害ペプチドとして精製される(表3)。このうち、イソロイシルグルタミルプロリンは新規なACE阻害ペプチドである。

成果の活用面・留意点

  • 本製造法は実用レベルであり、ACE阻害ペプチドを含む健康食品の開発が見込まれる。
  • バリルチロシンおよびイソロイシルチロシンは、ヒトでの血圧低下効果が公表され、これらを含有する食品が特定保健用食品に登録されている。

具体的データ

図1 「ふくさやか」小ふすまからのACE 阻害ペプチドの生成条件の検討。

表1 粗精製ペプチドの ACE 阻害活性

表2 小ふすまの ACE 阻害活性の獲得に及ぼすプロテアーゼ阻害剤の影響

表3 小ふすまから生成する ACE 阻害ペプチド、阻害活性、および収量

その他

  • 研究課題名:めん用小麦品種の育成と品質安定化技術の開発
  • 中課題整理番号:311b
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:野方洋一
  • 発表論文等:1) Nogata Y. et al. (2009) J. Agric. Food Chem. 57(4), 1331-1336. 2) Nogata Y. et al. (2009) J. Agric. Food Chem. 57(15), 6618-6622. 3) 野方「小麦ふすま、大麦糠、米糠からの新規血圧降下ペプチドとその製造法」特許公開2009-051813