夏季の花壇苗生産における気化冷却を活用した培地昇温抑制による生育改善

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要約

固化培地を用いることでポリポットによる被覆を行わず、培地に向けて送風することで培地水分の蒸発が促進され、気化冷却効果により培地の高温化を抑制できる。この方法によりパンジーおよびミニシクラメンでは夏季の生育不良が改善される。

  • キーワード:パンジー、ミニシクラメン、高温対策、送風、培地冷却
  • 担当:近中四農研・中山間傾斜地域施設園芸研究チーム
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 区分:近畿中国四国農業・花き
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

秋冬観賞用の花壇苗(パンジー、ミニシクラメンなど)には低温に強く、高温に弱い性質をもつ品目が多いが、栽培施設の気温が40oC近くにもなることがある夏季に育苗しなくてはならない。施設内の高温化を抑制する方法は数多くあるが、なかでも水の蒸発潜熱による気化冷却を活用する方法は低コストかつ省エネルギーである。また、施設全体の気温低下を目的とする従来の気化冷却技術と比較して、植物に近い培地の温度のみを低下させることが生育不良の改善に有効であれば、設備の規模を縮小でき効率的であると考えられる。そこで、培地の水分気化を促進して培地温度の低下を図る方法が花壇苗の生育に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 固化培地にセル苗を定植し、ポリポットによる被覆を行わない状態(ポットレス)で24穴SSトレイに12株を配置する。栽培は通気性の良い棚上で行う。棚下にビニルダクトを設置し日中(6時~18時)に15分間隔で上方へ送風(培地間隙で0.2 m/s程度)する(図1)。
  • 培地をポットレスにすることで、水分の蒸発量が増え培地温度が下がる。送風処理を加えることでその効果はより大きくなる(図2)。
  • パンジーではポットレス化および送風処理を行うことで生育が良くなる。パンジーは鉢上げ後2カ月程度で出荷可能となるが、7月下旬に鉢上げして処理を行う方が、8月下旬に鉢上げして処理を行うよりも生育改善効果が大きい(表1)。
  • ミニシクラメンではポットレス化および送風処理を行うことで生育が良くなる(表1)。 ミニシクラメンの栽培は初春から秋頃まで継続して行われ、処理によって7月~8月の高温期に起こりやすい生育停滞が緩和される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果情報は培地として9 cmポット型に固化した培地(ピートモス、バーミキュライト、パーライトを体積比3:1:1で含有、商品名エクセルソイル、みのる産業)を用い、肥料としてOK-F-1(大塚化学)1000倍希釈液を週1回施用した結果である。
  • 本成果情報はパンジー「デルタプレミアムイエローウィズブロッチ」を頭上灌水で、ミニシクラメン「ミラクルホワイト」を底面ひも給水で栽培した結果である。
  • 培地のポットレス化および送風処理によって培地水分の蒸発が速くなるため、頭上灌水では灌水量あるいは灌水回数を増やす必要がある。ただし、底面ひも給水では毛細管現象により培地水分はほぼ一定に保たれる。
  • 冷涼な時期にポットレス化および送風処理を行うと、培地温度が生育適温以下になる可能性があるので処理時期には注意する。

具体的データ

図1 培地および栽培装置

図2 ポットレス化および送風が頭上灌水した培地の水分蒸発量 (A) および温度 (B) に及ぼす影響

表1 ポットレス化および送風が出荷期のパンジー、ミニシクラメンの生育に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
  • 中課題整理番号:213c
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:中野善公、前田茂一(奈良農総セ)、後藤丹十郎(岡山大院自然科学)、東出忠桐、木下貴文、吉川弘恭
  • 発表論文等:中野ら (2009) 園学研 8(4) 475-481.