日射制御型拍動自動灌水装置の利用による露地夏秋ピーマンの減化学肥料栽培

要約

露地夏秋ピーマン栽培に日射制御型拍動自動灌水装置による点滴灌水同時施肥法を適用すると、畝間灌水・追肥による慣行栽培と比較して、窒素施肥量を30%削減して収量を11~24%増加できる。秀品率が増加し、肥料コストが低減し、平均販売金額が向上する。

  • キーワード:点滴灌水同時施肥、太陽光発電、減化学肥料栽培、露地夏秋ピーマン、ソーラーポンプ
  • 担当:近中四農研・広域農業水系保全研究チーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料、野菜茶業・野菜生産環境
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

作物に対する過剰な窒素施肥は、水質汚染の原因ともなることから、環境保全を目的として、減化学肥料栽培が奨励されている。養液土耕栽培は施肥量の削減に有効だが、初期投資コストが高額で、水量と水圧が確保された水源が必要なため、露地栽培での適応は限定的である。太陽光発電により駆動するソーラーポンプを利用した日射制御型拍動自動灌水装置(H17年度成果情報)は、日射量に応じて点滴灌水同時施肥を行う装置であり、低コストで露地栽培でも導入しやすく、施肥量を削減しても高品質安定多収栽培を期待できるため、量産できる装置に改良し、露地夏秋ピーマンで減化学肥料栽培を実証する。

成果の内容・特徴

  • 日射制御型拍動自動灌水装置は、フロートバルブ開閉方式を改良し、上・下限水位センサーと連動した電磁弁の開閉により、貯水タンク(拍動タンク)の貯水と配水が繰り返され、心臓の拍動に類似した間欠的な灌水が行われるようにしたものである。本装置は、少流量の水を蓄積して利用するため、水源の流量が少なく、商用電源がなくても導入可能で、水田転作作物で利用価値が高い。制御装置の開発により、量産化が可能となり低コスト化が可能となる(図1)。
  • 本装置を利用した点滴灌水同時施肥法によるピーマン栽培は、畝間灌水・畝間追肥による慣行栽培に比較して、収量が10%前後増加し、秀品率が向上する。減肥栽培では、施肥コストも削減できる(表1)。
  • 複数の農家の同一圃場を区画に分けて、慣行栽培と本装置による30%減肥栽培の比較試験を行うと、本装置の導入により、年次により11%(2008年)~24%(2007年)の増収効果が得られる(図2)。
  • 兵庫県但東地区における栽培規模1000株以上の生産者12軒のうち、本装置導入農家4軒の平均販売額は2,321千円/10aであり、慣行栽培農家8軒の平均販売額1,886千円/10aに比べて約23%多い。装置導入は、平均販売額の高位平準化に有効である。(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本装置の初期投資費用は、一般的な養液土耕装置の初期投資費用(100万円/10a)と比較し、約1/5の20万円/10a(基本セット12万円+配管チューブ代8万円)程度であり、原水の水質や使用条件によって変わるが、点滴チューブ、ソーラーポンプは3年、その他は10年間使用できる。露地ピーマン栽培では基本セットで約13aまで管理できる。
  • 本装置を用いた点滴灌水同時施肥は、時間給液量が0.3L/h程度の極微量灌水であり、透水性の高い土壌で効果が高い。
  • 点滴チューブの目詰まり防止のため、ろ過槽内の不織布フィルターは点検交換する。

具体的データ

図1 日射制御型拍動自動灌水装置の概要

表1 拍動自動灌水の適用がピーマンの収量・品質、施肥コストに及ぼす影響

図2 農家圃場における慣行栽培と拍動自動灌水栽培 (30%減肥)の収量の年次変動

図3 慣行栽培と拍動自動灌水導入農家の平均販売金額 (2009 年における同一地域内の1000 株以上の生産者)

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
  • 中課題整理番号:214q.3
  • 予算区分: 基盤、産学官連携経営革新技術普及強化促進事業、委託プロ( 省資源)
  • 研究期間: 2007~2010 年度
  • 研究担当者:吉川弘恭、中尾誠司、渡邊修一、福嶋 昭(兵庫農総セ)、本田 理(兵庫県豊岡農改セ)、沖本さやか(兵庫県朝来農林振興事務所)、北川真輔(兵庫県農政環境部)、原田和文(兵庫県北淡路農改セ)
  • 発表論文等:1)吉川、中尾 (2010)近中四農研資料、7:21-31
    2)吉川、中尾「間欠式自動灌水装置」2006 年4月7日 特許第3787628 号