肥効調節型肥料を用いた多収品種「タカナリ」のための全量基肥施用法

要約

水稲品種「タカナリ」は、穂首分化期頃の窒素溶出量を増やすことにより総籾数を増やし、出穂期までに総施肥窒素18g/m2の95%程度が溶出するように数種類の肥効調節型肥料を混合して基肥として施用することにより970g/m2程度の多収となる。

  • キーワード:水稲、多収、タカナリ、肥効調節型肥料、全量基肥
  • 担当:近農研・稲収量性研究近中四サブチーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近中四農業・作物生産、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

我が国の食料自給率は低い状況が続いているが、穀物価格の高騰などの影響により食品や飼料の価格上昇を招いている。このため、水稲の多収栽培は、食料の安定供給、輸入飼料の代替といった食料安全保障の面からも重要となる。このような状況を踏まえ、多収品種「タカナリ」の収量ポテンシャルを最大限に発揮させる合理的な施肥体系を確立する。

成果の内容・特徴

  • 稲収量性研究近中四サブチームが実施した分施による多収事例(2007年タカナリで1076g/m2)を参考として、肥効調節型肥料の溶出予測から用いる肥料と混合割合を決定したオリジナルブレンド肥料が表1の標肥である。全量基肥とする施肥体系である。
  • 標肥における窒素の溶出量は穂首分化期の2週間ほど前から増加し、穂首分化期頃までに総窒素量18g/m2の約50%が溶出し,出穂期までには約95%が溶出する設計となっている(図1)。
  • 2009年に実施した多肥(総窒素量23g/m2、表1、図1)では粗玄米重(収量)が1000g/m2を超え、また、2010年の多肥(総窒素量21.3g/m2)における収量は1100g/m2に達する極めて高い収量となったが、いずれも標肥と有意な差はない(表2)。
  • 2010年の少肥(総窒素量14.7g/m2)においても1000g/m2を超える多収を達成しているが、穂首分化期頃に窒素溶出量が多い多肥ほど総籾数が増加し収量も増えている(表2)。
  • 標肥における「タカナリ」の3カ年の収量は871~1060g/m2と年次間差が見られたが、平均すると972g/m2と高いレベルでの収量を達成している(表3)。これらのことから、標肥の窒素溶出パターンと総窒素量が多収品種「タカナリ」のもつ収量ポテンシャルを効率よく発揮させると考えられる。
  • オリジナルブレンド肥料を用いた現地試験(広島県三原市)では、収量の最も高い圃場で2009年は974g/m2、2010年は837g/m2の多収を実証している(データ省略)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果に示す施肥量や肥料の混合割合は、水稲品種「タカナリ」の施肥設計の参考となるが、施肥量と混合割合は栽培地の気象条件等を考慮する必要がある。
  • 近農研圃場で実施した各試験におけるリン酸(P2O5)とカリ(K2O)の施肥量は各11g/m2であり、窒素肥料とともに全層に施肥した。なお、側条施肥機で施肥する場合、リン酸とカリ肥料を加えると繰出量調節範囲を超えるため耕起前に施肥しておく必要がある。
  • 試験圃場の作土層における土壌全窒素含有率は、近農研天神圃場が最も低く0.07%、近農研本館圃場が0.14%、実証試験圃場では0.17~0.22%である。

具体的データ

表1 オリジナルブレンド肥料に用いた肥料と窒素量

図1 オリジナルブレンド肥料の窒素溶 出パターン

表2 施肥窒素量が総籾数,登熟歩合と収量に及ぼす影響

表3 オリジナルブレンド肥料を施用した水稲品種「タカナリ」の収量および収量構成要素

その他

  • 研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:221c
  • 予算区分:重点事項研究強化費
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:佐々木良治、長田健二、大平陽一