小麦品種判別用のSSRマーカーで検出される品種内多型は極めて少ない

要約

小麦品種判別用に開発した10組のSSRマーカーは、複数府県で栽培されている15品種、のべ59の品種・府県のうち、ある府県の1品種で1遺伝子座の変異が検出されるのみであることから、これらのマーカーで検出される遺伝子型の品種内多型は極めて少ない。

  • キーワード:コムギ、SSRマーカー、原種、品種内多型、品種判別
  • 担当:近中四農研・品種識別・産地判別研究チーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

食品表示の信頼性を確保する方策の一つとして、小麦加工食品の使用品種表示を確認できるSSR (Simple Sequence Repeat) マーカー10組を2008年に開発した(平成20年度研究成果情報)。品種判別を目的としたDNAマーカーは、検出される遺伝子型の品種内における均一性が不可欠な要素である。一方、日本における小麦の種子生産は、奨励品種に採用した都道府県が行っており、採用期間が長くなるに従い、都道府県ごとに独自の遺伝的分離と固定が生じ、同じ品種であってもDNAレベルの相違が生じている可能性がある。そのため、開発したSSRマーカーによる品種内多型の有無を確認することは本技術の信頼性を確認することであり、使用上の課題として残されていた。そこで、各都道府県において維持管理されている原種または原原種を用い、SSRマーカー10組により検出される遺伝子型の品種内多型の有無を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2007年時点で複数の都道府県で奨励されている15品種について、26府県から提供された59の原種または原原種を対象とする(表1)。
  • 1品種を除く14品種について、各府県から取り寄せた原種または原原種の10組のSSRマーカーによる遺伝子型は、2008年に報告した遺伝子型カタログとすべて一致する。
  • ある府県の1品種の原種について、TaSE 96の遺伝子型のばらつきが見られるが、これは原原種6系統のうち1系統に固定された変異に由来する(表2)。残りの9遺伝子座は、遺伝子型カタログと一致する。
  • 育成年が1944年と最も古く、12府県で奨励されている「農林61号」は、10遺伝子座すべてにおいてPCR増幅パターンが一致し、品種内多型は認められない(図1、一例)。
  • 59の品種・府県の組合せの中で、ある府県の1品種の原種について1遺伝子座の変異が検出されるのみであったことから、これらのSSRマーカーによって検出される10遺伝子座において、品種内の変異は極めて少ない。

成果の活用面・留意点

  • 小麦品種判別用に開発した10組のSSRマーカーは、品種内多型がほとんど検出されないことから、品種判別用マーカーとして適していると考えられる。
  • これらの結果は、同一品種においてDNAレベルの相違が全く存在しないことを証明するものではない。
  • TaSE 96の遺伝子型のばらつきが見られた府県の種子であっても、特に実用上の問題はない。
  • 「平成20年度研究成果情報」に記載の方法に従ってPCR反応を行い、増幅産物をキャピラリー型電気泳動装置によって検出し、遺伝子解析ソフトウェアを用いて解析した結果である。

 具体的データ

表1. 供試した小麦品種と奨励品種採用府県数(2007 年)

表2. 1 品種1 府県の原種および原原種のTaSE96 のPCR 増幅長(bp)

図1.農林61 号におけるTaSE6, 117, 149 のPCR 増幅パターン

その他

  • 研究課題名:農産物や加工食品の簡易・迅速な品種識別・産地判別技術の開発
  • 課題ID:324a
  • 予算区分:委託プロ(食品)
  • 研究期間:2009 年度
  • 研究担当者:藤田由美子、矢野博
  • 発表論文等:藤田、矢野(2010)育種学研究、12 (3): 96-101