ソーラーポンプを利用した施設栽培用日射量対応型極微量灌水施肥装置

要約

ソーラーポンプを使って貯水タンクへ揚水し、タンク内の上・下限水位センサーに連動して加圧送水ポンプの稼働・停止を制御して、極微量灌水配管系への給液を行えば、日射量に応じた点滴灌水施肥が可能となり、施設栽培用養液供給装置を低コスト化できる。

  • キーワード:点滴灌水施肥、ソーラーポンプ、極微量灌水
  • 担当:近中四農研・中山間傾斜地域施設園芸研究チーム
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 区分:近畿中国四国農業・農業環境工学
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

露地夏秋ピーマン栽培では、日射量に応じた点滴灌水施肥の利用により施肥量を3割削減して2割増収することが可能であるが、施設栽培の少量培地耕では、保水量が少ないために、露地栽培より厳密な給液管理が必要である。極微量灌水施肥法(「平成18年度成果情報:粉砕モミガラ培地耕に適用可能な極微量灌水施肥法」)は0.2~0.4L/h/点滴孔の給液で、少量培地耕でもトマト栽培が可能であるが、タイマー制御であるため、排液を低減し、肥料や水の無駄を少なくするためには、天候に応じた煩雑な操作が必要となる。また、市販の日射比例制御装置は、コンピューター制御による給液管理装置が高額である。そこで、ソーラーポンプを利用して日射量に対応した極微量灌水施肥を行う簡便低コストな施設栽培用給液管理装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • ソーラーポンプを用いて、上・下限水位センサーを備えた貯水タンクに揚水し、上・下限水位センサーに連動して商用電源で駆動する加圧送水ポンプ(交流100V)の駆動・停止を制御すると、貯水タンク(拍動タンク)の貯水と配水が繰り返され、心臓の拍動に類似した間欠的な灌水が行われ、日射量に応じた送水ができる。0.2~0.4L/h/点滴孔の極微量灌水施肥は、2L/h/点滴孔の慣行点滴潅水施肥と比較すると、1/5~1/10の能力の加圧送水ポンプで同一面積へ給液が可能で、コストを低減できる(図1)。
  • 日射量対応型極微量灌水施肥装置を用いた施肥は、複数種類の肥効調節型肥料を別の網袋に入れ、ろ過槽または拍動タンクに投入して行う。高価な液肥混入装置が不要なため、一般的市販装置の1/5~1/10のコストで設置可能である。
  • 点滴チューブを10aあたり480m配管すると、圧力補正型給液停止機構付きボタン型点滴装置(12L/h)は、点滴チューブ12m毎に配置するので、40個必要となる。給液メイン配管の時間給液量は480L/hで、家庭用井戸ポンプ(1200L/h)で十分な加圧送水が可能である。(図2)。
  • 日灌水量は日積算日射量に依存して変化する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 加圧送水ポンプ制御装置は露地栽培用より約2万円高く、基本セットは約14万円で(有)プティオで購入できる。初期投資コストは約20万円/10aである。
  • 極微量灌水では、2次点滴チューブの点滴孔への作物根の進入が起きやすいため、目詰まりをしないように注意する。
  • 肥効調節型肥料は水温によって溶出速度が変動する。原水温が15°C以下の低温条件では利用できない。肥料交換の目安は、1日のうちの第1回目の給液ECが2mS/cm以下になった時とする。
  • 6段摘心のトマト(桃太郎ファイト)低段密植ロックウール栽培(6000株/10a)へ適応した場合、1日一株当たりの窒素施用量を3段開花まで50mg、以後75mgで管理すれば、9t/10aの総収量を得ることができる(7月6葉期定植、12月収穫終了)。

具体的データ

図1 日射量対応型極微量灌水装置の概略と作動機構

図2 日射量対応型極微量潅水施肥装置の配管事例

図3 日射量と灌水量の関係

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
  • 中課題整理番号:213c
  • 予算区分:基盤、交付金プロ( 中山間20t 採りトマト)
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:吉川弘恭、長崎裕司、中尾誠司
  • 発表論文等:1)吉川(2009)近畿中国四国農業研究叢書、2:155-160
                       2)吉川(山西)・中尾(2010)近中四農研資料、7:21-31