マルドリ方式によるウンシュウミカン樹の水分ストレス状態の制御と評価方法

要約

マルドリ方式による少量多頻度点滴かん水によりウンシュウミカン樹の水分ストレス状態を制御できる。また、粘着力や感応部の表示の仕様を改良した「水分ストレス表示シート」により強いストレス状態の確認が容易にできる。

  • キーワード:ウンシュウミカン、水分ストレス、水ポテンシャル、高品質果実
  • 担当:近中四農研・次世代カンキツ生産技術研究チーム
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 区分:近畿中国四国農業・果樹、果樹・栽培
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

ウンシュウミカンの栽培では、樹体を適度な水分ストレス状態に維持することが高品質果実生産のための課題である。そのためには、適度なかん水を省力的に行なう技術が必要である。そこで、点滴かん水により省力的に精密なかん水を行うことができるマルドリ方式のかん水システムを活用し、樹体の水分ストレス状態を制御できることを示す。また水分ストレス状態を蒸散速度から簡易に評価するための「水分ストレス表示シート」(平成19年度成果情報)は、葉への粘着力が不足し、色変化の判断の個人差が大きくなるという問題があった。ここでは、これを改良して実用化した仕様を示し、適切な樹体の水分ストレス状態を制御する方法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 最大水ポテンシャル(夜明け前の葉の水ポテンシャル)を確認しつつかん水量とかん水頻度を変化させることで、樹の水分ストレス状態をコントロールする。その再、1回に施すかん水量を5~10?/樹の少量としてほぼ毎日かん水(少量多頻度点滴かん水)を行うことで、降雨の影響が無いマルドリ方式の栽培において樹体の水分ストレス状態を制御できる。また、かん水の量と間隔を変えることで、樹体の水分ストレス状態を変化させることができる(図1)。
  • 8月中旬から下旬の葉の最大水ポテンシャルが-1.0MPa程度で維持した場合は、一時的に-1.0MPaを下回るような強い水分ストレスを付与した後にストレスを緩和した場合と比較すると、果実肥大は抑制されず、減酸もし易い(表1)。
  • 新型の「水分ストレス表示シート」は、接着面を約0.5mmと厚くして、さらに柔軟性を持たせたことで、葉の裏面の葉脈の凹凸に密着し、旧型のような葉裏への粘着性の問題はない(表2)。
  • 新型の「水分ストレス表示シート」は、塩化コバルトの色変化部分に反応後の色と同色の三角形を重ね、これが背景色(色変化部分)と同化して見えなくなることで色変化の判断の個人差を軽減し、ストレス状態の判定を容易にできる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 品種、土壌条件や樹の大きさなどにより、適切な水分ストレス付与の時期や程度、および具体的なかん水方法が異なる。本成果情報では「宮川早生」(11年生樹)を花こう岩風化土壌を母材とする土壌で栽培したものである。
  • ここでのかん水は、圧力調整弁付きの点滴チューブ(吐出量 2.3?/hr・孔)を用いて、樹を中心に渦巻き状に15個の吐出孔(間隔30cm)を配置して行っている。
  • 「水分ストレス表示シート」による水分ストレス評価の原理は、ウンシュウミカンにおいて最大水ポテンシャルが約-1MPa以下で日中の葉裏からの蒸散が極端に抑制されることを利用したものである(平成19年度の成果情報「ウンシュウミカン樹の水分状態を簡易に判別できる「水分ストレス表示シート」を参照」)。

具体的データ

図1 「宮川早生」における樹体の水分ストレス制御事例

表1 水分ストレス制御法の違いによる果実の肥大、Brixおよび酸含量の変化

表2.「水分ストレス表示シート」の改良点

その他

  • 研究課題名:次世代型マルドリ方式を基軸とするかんきつ等の省力・高品質安定生産技術の確立
  • 中課題整理番号:213f
  • 予算区分:交付金プロ(高収益カンキツ)
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:星 典宏、根角博久
  • 発表論文等:星ら(2007)特許4817176号
    星ら(2007)園芸学研究、6(4):541-546