複数産次に亘り空胎期間を延長せずに分娩後の過剰排卵処置・胚回収ができる

要約

黒毛和種雌ウシでは、分娩後60日以内に過剰排卵処置・胚回収を行うことができる。同一個体において連続する複数産次に亘ってこのプロトコルを行っても、単独年次に適用した場合と変わらない胚回収成績と胚回収後の繁殖成績が得られる。

  • キーワード:黒毛和種分娩牛、過剰排卵処置、胚回収、空胎期間
  • 担当:近中四農研・粗飼料多給型高品質牛肉研究チーム
  • 代表連絡先:電話0854-82-0144
  • 区分:近畿中国四国農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

肉用牛では分娩後40日を経過した時点で、次回の妊娠に向けての繁殖機能が回復する。この時点から過剰排卵処置・胚回収を行えば、母体に過度の負荷を掛けずに、1年1産の理想的な繁殖サイクルを維持しながら、移植に提供する生体由来胚の生産ができる。そこで、同一牛を用いて、連続する複数産次での過剰排卵処置・胚回収成績、胚回収後の繁殖成績を調査し、1年1産の繁殖サイクルに1回の過剰排卵処置・胚回収を組み入れた技術をフィールド利用する場合の一助とする。

成果の内容・特徴

  • 過剰排卵処置は分娩40日後から開始する。過剰排卵処置は一律に処置を開始するために腟内留置型徐放性プロジェステロン製剤(CIDR)を用い、CIDR挿入時に2mgの安息香酸エストラジオール(EB)を投与、CIDR挿入後5日目から総量20AU(アーマーユニット)の卵胞刺激ホルモン(FSH)を漸減投与するプロトコルを基本とする。胚回収は発情確認後7日または8日に行い、胚回収後には通常の繁殖管理を行う(図1)。
  • 2~5産次の胚回収により、平均6.7個(2産次)、8.5個(3産次)、9.1個(4産次)、9.4個(5産次)の移植可能胚が採取される。平均移植可能胚数は産次を経ることにより増加する傾向にあるが、有意差は認められない。
  • 胚回収後の初回発情までの平均日数は、17.8日(2産次)、12.8日(3産次)、8.3日(4産次)、11.3日(5産次)であり、概ね胚回収後10日前後で発情が回帰してくる。また、初回発情日数は2産次で長期化する傾向にあるが、有意差は認められない。
  • 平均空胎期間は、88.0日(2産次)、88.9日(3産次)、80.2日(4産次)、87.6日(5産次)である。すべての産次で90 日以下となり、分娩後に過剰排卵処置・胚回収を行っても、ほぼ1年1産が達成できる。
  • 胚回収成績も、胚回収後の繁殖成績も単独年次で行った場合と変わらない成績が得られる(図2、3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、肉用牛において、1年1産の繁殖サイクルを維持しながら分娩後に過剰排卵処置・胚回収を行う際の基礎的データとなる。
  • 本成果は、基本的に自然哺乳の分娩牛を用いた成績を元にしている。
  • 胚回収操作は、ほぼ同一の技量を持つ2名の技術者が行っている。また、胚回収後の発情確認は基本的に朝夕2回の発情行動、外部徴候確認に依っている。
  • 本プロトコルにおいても、過剰排卵処置に対する反応性の個体差は大きく、図2に示すように、移植可能胚が採取されない場合もある。
  • 胚回収後の初回発情時には、顕著な発情行動が見られない個体もあった。胚回収後の繁殖成績向上には、泌乳量に見合った増飼と、緻密な発情観察が必要とされる。

具体的データ

図1 過剰排卵処置・胚回収プロトコル

図2 分娩後早期の胚回収成績

図3 胚回収後の繁殖成績

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
  • 中課題整理番号:212d.3
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:大島一修、山本直幸、小島孝敏