漏水過多な棚田畦畔法面の水移動特性を考慮した法面保全手法

要約

漏水過多の棚田では畦畔法面へ横浸透が顕著に見られ、これによる高い水分状態が法面崩壊の要因の一つとなっている。畦畔内側に作土層より深く遮水シートを埋設することにより横浸透水量は減少し、かつ高い水分状態が回避され法面保全に効果がある。

  • キーワード:棚田、畦畔法面、法面保全、遮水シート
  • 担当:近中四農研・中山間傾斜地域施設園芸研究チーム
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 区分:近畿中国四国農業・農業環境工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

中山間地域の棚田地帯では、水田区画間の段差が大きくなり、それにともない畦畔法面も大きくなる。過疎化・高齢化の進む中山間地域では法面の管理が困難となり、法面崩壊が起きた場合はそれが原因で耕作放棄となる場合もあり、法面保全は重要な課題である。畦畔法面崩壊の要因は様々であるが、豪雨時の圃場水位の急上昇による畦畔越流や、過大な横浸透による畦畔法面内部の地下水位の急激な上昇に伴う畦畔の弱体化が主な要因である。
そこで畦畔法面の崩壊要因の一つである横浸透に着目し、棚田畦畔法面での湛水時の水移動特性を把握し、これに基づく簡易な法面保全手法とその効果について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 棚田ライシメータ(図1)における水田から畦畔への浸透は、N型減水深測定器の1面(畦畔側)を切断した改良型N型減水深測定器による浸透量の直接測定(表1)と、畦畔法面の土壌水分ポテンシャルの測定結果(図2-1)から、縦方向と比較し横方向が非常に大きい。
  • 横浸透対策として畦畔内側に埋設深さを変えて遮水シートを埋設し比較すると、遮水シートを土中に埋設しない場合(図2-2)はシートがない場合(図2-1)とあまり変化はない。
  • 遮水シートを土中深くに埋設するほど、横浸透が抑制され、高い水分状態になる部分(図2の水色)が減少して、低い水分状態にある部分(図2の黄色)が増加し崩壊の危険性が減少する。
  • しかし、縦浸透で遮水シート埋設深以上に到達した浸透水は横方向に浸透しており、法面全体が低い水分状態にならないため(図2-4)、暗渠などでの排水を併せて行い低い水分状態にすることにより法面保全の効果が高まる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は農業者による簡易な保全対策、および圃場整備において圃場整備時のコンクリート畦畔の施工深等を決定する参考資料となる。
  • 遮水シートは埋設深が深い場合には耐久性がある物がよい。本成果では、厚さ0.7mmのゴムシート(畦プロシート)を使用した。
  • 所内に設置された3段の棚田ライシメータ(図1)での結果のため、他の土壌では土壌特性に合わせた検討が必要である。

具体的データ

図1 棚田ライシメータの概要

表1.上段水田における減水深の測定結果

図2. 畦畔法面の遮水シート設置時における土壌水分ポテンシャルの分布図

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地の立地条件を活用した施設園芸生産のための技術開発
  • 中課題整理番号:213c
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:吉村亜希子、松田周