都市住民の援農への参加動機と満足度

要約

都市住民の援農への参加動機として、農業の支援や保全、農業の体験や技術習得、レクリエーションの3つを把握できる。このうち、本来的な動機ともいえる農業の支援や保全では参加者の目的と満足度が乖離し、特に活動の中心となりうる層でこの傾向が強い。

  • キーワード:農作業体験、援農、都市住民、参加動機、NPO法人、満足度
  • 担当:近中四農研・農業・農村のやすらぎ機能研究チーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・営農
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

援農は、都市住民が農作業体験を望むとき、比較的簡単に取り組める機会の一つとなる。援農では、労力の提供側である都市住民と機会の提供側である生産者の間で、合意を形成する仲介システムが必要となる。こうしたシステムの定着や安定化では、運営面での双方のメリットや満足度の確保が必要である。この点に関し、都市住民の参加動機や満足度の検討は必ずしも十分行われていない。そこで、農作業体験の促進と援農の仲介システムの安定化や普及に向け、都市住民の参加動機の把握と満足度の検討を行う。

成果の内容・特徴

  • 身近に取り組める援農の事例として、都市部で援農の取り組みを行うNPO法人の活動を選定している。2009年、参加者50名に参加目的として想定できる13項目について目的と合致している度合(合致度)と参加したことによる満足度との評価を11段階で聞く質問紙調査を行い、38回答を得ている。畑作農家を援農対象としており、作業は断続的にではあるが日常的に発生している。
  • 都市住民の援農への参加動機として、「農業の支援や保全」「農業の体験や技術習得」「レクリエーション」の3つを把握できる。目的としての合致度の評価結果(欠損値のない35回答)を用い因子分析を行うと4つの潜在因子が抽出できる(表1)。潜在因子を、参加への内的原因という意味で動機とみなすと、「社会参画」を加えた4つを動機として解釈できる。信頼性係数と共通性からみて、「社会参画」を除く3つの動機は、設問構成に左右される面はあるが、相対的に信頼性のある動機とみなせる。
  • 「健康を管理」や援農の本来的ともいえる「農業の支援や保全」の動機に関わる目的について、合致度と満足度の乖離を確認できる。目的項目毎に合致度と満足度の相関係数をとり、係数が0.6未満の項目では両者が乖離しているとみなしている(図1)。
  • 参加者の参加日数や年齢層をみると、援農の本来的動機に関わる項目について、特に活動の中心的メンバーにもなりうる層で目的と満足度が乖離する。援農の取り組みについて、改善の余地がありうることを指摘できる。合致度と満足度の乖離する項目について、性別や年齢層、年間参加日数区分、継続年数の属性毎での評価の差をみる。相対的評価となるが、「農作業を体験」は65歳以上や継続年数が4年以上の回答者の満足度が、「健康を管理」は女性や3年以下の満足度がそれぞれ高く、期待した以上の満足度が得られている。他方で、「農業を支援」「有機農産物を確保」「有機農業生産を支援」「農業技術を習得」は、合致度に対する満足度の評価が相対的に低い。特に、男性や64歳以下、日数41日以上の回答者の評価の低さが目立つ(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 援農仲介システムの機能を担うNPO法人、JA、第3セクターや自治体が、援農のシステムや取り組みとその運営において、課題や改善方策を検討する際の参考となる。

 具体的データ

表1 都市住民の援農への参加動機

図1 目的の合致度と参加による満足度との乖離

表2 乖離のある項目での属性毎の 合致度と満足度の差異

その他

  • 研究課題名:農業・農村のもつやすらぎ機能や教育機能等の社会学的解明
  • 課題ID:421e
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:加藤克明