モチ性パンコムギ穀粒のフラクタン含量はウルチ性のものに比べ有意に増加する

要約

Wx-D1座の対立遺伝子が異なるウルチ・モチ性準同質遺伝子系統においては、モチ性穀粒の全フラクタン含量は、ウルチ性のものに比べ、50%以上増加する。この増加は、個々のフラクタンの増加に起因するもので,Wx-D1遺伝子の多面作用によるものと考えられる。

  • キーワード:多面作用、パンコムギ、フラクタン、フラクトオリゴ糖類、Wx-D1
  • 担当:近中四農研・パン用小麦研究近中四サブチーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

パンコムギ植物体では、ショ糖含量の増加に伴い、フラクタン(フラクト多糖類およびフラクトオリゴ糖類)含量が増加することが報告されており、パンコムギと同一のコムギ連に属するオオムギでは、モチ性穀粒は、ウルチ性穀粒に比べ、ショ糖含量が増加することが報告されている。パンコムギ穀粒はフラクタンを含んでおり、モチ性穀粒でショ糖含量が増加し、かつ植物体と同様の代謝制御機構の働きがあれば、穀粒のフラクタン含量が増加すると予想される。そこで、遺伝的背景がほぼ同一でWx-D1座の対立遺伝子が異なる準同質遺伝子系統を用いて、フラクタン含量を比較し、当該成分へのWx-D1座の多面作用の有無を確認する。

成果の内容・特徴

  • 「関東107号」の遺伝的背景をもつモチ性準同質遺伝子系統(Wx-A1b, Wx-B1b, Wx-D1d)の穀粒では,ショ糖含量がウルチ性準同質遺伝子系統(Wx-A1b, Wx-B1b, Wx-D1a)のおよそ1.4倍に増加している。モチ性準同質遺伝子系統の全フラクタン含量(2.37~2.42%)は、有意に増加し、ウルチ性準同質遺伝子系統(1.44~1.60%)のおよそ1.50~1.65倍になる(図1、表1)。
  • フラクトオリゴ糖類(1-ケストース、6-ケストース、ネオケストース、ニストースおよびバイファーコース)含量は、Wx-D1座遺伝子の機能の喪失により、およそ1.35倍から1.95倍の範囲で有意に増加する(図1、表1)。
  • 全フラクタン量に占めるフラクトオリゴ糖類の合計量の割合は、Wx-D1座の対立遺伝子に関わらずほぼ一定で、およそ40%である。以上の結果は、全フラクタン含量の増加は、特定の構成糖類が著しく増加することによるものではなく、個々の構成糖類の増加に基づくことを示している。
  • Wx-D1座の対立遺伝子の違いにより、穀粒中の全フラクタンおよび個々のフラクトオリゴ糖含量が変化する現象は、これまでに報告されていない、Wx-D1座の多面作用と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • フラクタンは、国際食品規格委員会の定義による食物繊維である。フラクトオリゴ糖を関与成分とする特定保健用食品が許可されている。モチ性パンコムギ穀粒は、100 g(乾物)中の総フラクタン含量がフラクトオリゴ糖を関与成分とする特定保健用食品(規格基準型)の一日摂取目安量(3~8g)の30~80%に相当しており、フラクタンの供給源としては、ウルチ性のものよりも、優れている。
  • 穀粒中のフラクタン含量は、栽培年次により有意に異なることが多い(表1)。

 具体的データ

図 1. ウルチ・モチ性の違いによるフラクタン含量の違い(3 年間の平均値)

表1 フラクタン含量に対する遺伝子型および栽培年次(3 年)の影響(有意差検定の結果)

その他

  • 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
  • 中課題整理番号:311c
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:安井 健、芦田かなえ
  • 発表論文等:Yasui and Ashida (2011) J. Cereal Sci. 53: 104-111.