大麦粉のフラバノールおよび総ポリフェノール含量を簡易に定量する方法

要約

大麦粉のメタノール抽出液のフラバノール含量をDMACA試薬を用いて定量すると、バニリン法と比べて検出感度が高い。また同じ抽出液を用いて総ポリフェノール含量をFolin-Denis検出試薬を用いて定量すると、プルシアンブルー法に比べて発色が安定する。

  • キーワード:大麦粉、ポリフェノール、Folin-Denis、DMACA、プロアントシアニジン、カテキン、定量法
  • 担当:近中四農研・大麦・はだか麦研究チーム
  • 連絡先:電話0877-62-0800
  • 区分:近畿中国四国農業・作物生産、作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

大麦・はだか麦の需要・消費拡大のために既存品種よりポリフェノール含量を減らして炊飯麦がほとんど褐変しない品種育成が進んでいる。ポリフェノールの一種であるフラバノール(カテキン+プロアントシアニジン)は大麦の褐変に大きく寄与するため感度の高い定量方法が必要である。一方で機能性や耐病性の観点からは総ポリフェノール含量の重要性も指摘されており、育成系統の評価には簡易な定量方法が必要である。そこで少量の大麦粉のメタノールで振盪した抽出液を使い、DMACAおよびFolin-Denis試薬を用いてフラバノールおよび総ポリフェノール含量を定量する手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • フラバノールの定量方法は、カテキンおよびプロアントシアニジンのC8位の炭素に結合するDMACA(4-dimethylaminocinnamaldehyde:Sigma社)を検出試薬とする。精麦粉ないし原麦粉をメタノールで高速往復振盪抽出し、遠心分離後の上清を用いて標準の(+)-カテキンとの比色定量を行い、試料1g当たりのフラバノール量を(+)-カテキン当量(nmol/g)で表す(図1)。
  • DMACA法は標準(+)-カテキンを0~2μgの量で検量線を書ける感度をもつ(図2)ため50μg以上を必要とするバニリン法と比較して高感度である。
  • 総ポリフェノールの定量方法は、Folin-Denis(フォリン-デニス)試薬を検出試薬とする。精麦粉または原麦粉にメタノールで振盪抽出し、Folin-Denis試薬と飽和炭酸ナトリウムを加えて混合後、遮光室温放置1時間に遠心し、(+)-カテキンとの比色定量を行い、試料1g当たりのポリフェノール量を(+)-カテキン当量(mg/g)で表す(図1)。
  • Folin-Denis法による吸光度は発色後長時間(7時間)経過しても安定している(図3)。プルシアンブルー法は色調変化が早く(図3)、試薬滴下から吸光度測定間の秒数まで合わせる必要があることや、測定溶液に濁りを生じて吸光度計測が難しくなることがあるが、Folin-Denis法では問題とならない。
  • メタノールで抽出した液は-20°Cで保存可能であり、DMACA法とFolin-Denis法の両方に適用できる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 小型搗精機(サタケ社TM-05)を用いて60%歩留搗精した後、サンプルミル(サイクロテック1093)で粉砕して精麦粉とした。粉量は必要に応じてスケールアップまたはダウンすることができる。
  • DMACA法は発色は明瞭であるが吸光度は経時変化が早いので分析は20分以内に速やかに行う必要がある。またDMACAはインドールなどフラバノール以外の化合物にも結合することを留意する。
  • Folin-Denis試薬はSigma社の製品を用いる。発色原理はフェノール性水酸基がアルカリ側で示す還元力によりモリブデン酸が還元されて生じる青色を比色定量する。
  • 本法で利用した分光光度計は島津製作所multispec1500である。

具体的データ

図1 測定法 (左:DMACA法によるフラバノール含量定量法 右:Folin-Denis法による総ポリフェノール含量定量法)

図2 DMACA法とバニリン法の感度の違い

図3 標準物質(+)-カテキンの吸光度の経時変化

その他

  • 研究課題名:大麦・はだか麦の需要拡大のための用途別加工適性に優れた品種の育成と有用系統の開発
  • 中課題整理番号:311d
  • 予算区分:基盤、委託プロ(加工)
  • 研究期間:2006~2009 年度
  • 研究担当者:柳沢貴司、神山紀子、阿部大吾、長嶺 敬、高橋飛鳥