土壌締固め・定量PCR法による迅速・高精度なキタネグサレセンチュウ密度の推定

要約

キタネグサレセンチュウ密度は、土壌締固め機を用いて供試土壌を圧密化して線虫個体を破壊し、その土壌から抽出したDNA中のキタネグサレセンチュウ由来DNA量を定量PCR法で定量することで、迅速かつ高精度に土壌から直接測定できる。

  • キーワード:キタネグサレセンチュウ、土壌締固め法、定量PCR法
  • 担当:近中四農研・環境保全型野菜研究チーム
  • 代表連絡先:電話0773-42-0109
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(土壌・病害虫)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

土壌線虫の同定・計数は、土壌から線虫を分離し、顕微鏡下で観察する方法が一般的である。土壌線虫の分離は線虫が水中を泳ぐ特性を生かしたベルマン法が従来から広く用いられてきたが、ベルマン法は線虫の分離に2~3日間を要し、その分離効率も約50%と低いことが知られている。また、分離した線虫を顕微鏡下で同定するには熟練を要し、同時に多数のサンプルを観察できず、時間もかかる。そこで、土壌から線虫を分離する行程を介さずに、迅速・高精度に土壌中の植物寄生性線虫であるキタネグサレセンチュウを定量する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 風乾土壌20gを土壌締固め機(大起理化工業製)で圧密化(1.4 g/cm3)して、Sato et al. (2010)の方法でDNAを抽出し、定量PCR法によりキタネグサレセンチュウ由来のDNA量を定量する方法は、1サンプルあたり約4時間の工程で従来法より迅速に(図1)、かつ多サンプルを並行して測定できる。
  • 圧密化した土壌では、していない土壌に比べて、定量PCR法の測定値(Ct値:PCR増幅産物量が閾値に達したときのサイクル数)が低く、キタネグサレセンチュウ由来のDNAの検出量が約2~12倍となる(表1)。これは、線虫個体が土壌粒子につぶされ、さらにDNAが土壌中に放出されるためと推察される。
  • 水分含量9%の風乾土壌の場合、室温で5カ月間保存しても、定量PCR法で安定的に定量できる(図2)。
  • 土壌に添加した既知量のキタネグサレセンチュウとCt値の間に有意な相関関係(P<0.01)があり、土壌締固め法と定量PCR法を組み合わせて土壌中のキタネグサレセンチュウ密度が推定できる(図3)。また、土壌の種類によって、検量線の傾きが異なる。
  • 定量PCR法で40回の増幅でもCt値が検出できない場合はサンプル中にキタネグサレセンチュウがいなかったことを意味する。サンプル中に対象の線虫が存在していても分離されないケースがある従来法に比べ、高い精度でキタネグサレセンチュウの土壌中での存在有無を確認できる。

成果の活用面・留意点

  • 土壌締固め機は特注品として入手できる(大起理化工業製)。
  • 土壌タイプごとに検量線を作成する必要がある。
  • 土壌試料の保存可能期間については、黒ボク土の風乾土壌(水分率9%)についての結果であり、土壌の種類や土壌水分率によって保存可能期間が異なる可能性がある。
  • DNA抽出時に、他の植物寄生性線虫DNAを内部標準として添加し、キタネグサレセンチュウ由来のDNAが検出されなかった場合に、その原因が、DNA抽出のミスによるものか、試料中にキタネグサレセンチュウが存在しなかったためかが判断できる。

具体的データ

図1 従来法と新法の手順および所要時間の比較 *:サンプリング翌日から線虫分離をする場合がある。その1晩を利用。

表1 締固め有・無によるCt値の違い*と検出された キタネグサレセンチュウ由来DNA量比

図2 室温保存期間が風乾土壌内のキタネグサレセンチュウ由 来DNA量に及ぼす影響(**P<0.01)

図3 添加回収実験によるキタネグサレセンチュウ数と定量 PCR法測定値(Ct)の関係(**P<0.01)

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地における環境調和型野菜花き生産技術の開発
  • 中課題整理番号:214u
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2010 年度
  • 研究担当者:佐藤恵利華、須賀有子、豊田剛己( 東京農工大) 、後藤圭太( 東京農工大) 、Yu Yu Min (東京農工大)、鈴木千夏( (株)デザイナーフーズ)
  • 発表論文等:Sato E. et al. (2010) Nematological Research. 40 (1):1-6