硝子率が低く精麦品質が優れる早生・多収の裸麦新品種「ハルヒメボシ」

要約

六条裸麦新品種「ハルヒメボシ」は早生で穂が長く多収である。倒伏に強く成熟期以降の中折れも発生しにくい。従来品種よりも硝子粒の発生率が低い。原麦および精麦白度が高く、味噌加工適性を有する。

  • キーワード:ハダカムギ、耐倒伏性、多収、硝子率、精麦品質
  • 担当:作物開発・利用・大麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・作物機能開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

裸麦は需要に対する生産量が少ない、いわゆるミスマッチが問題となっていることから、生産拡大・安定供給が求められている。一方で用途に応じた高品質な原料が求められており、生産者の収益性を確保するためには品質ランク区分の基準値をクリアすることが必要である。近年、精麦用大麦における同区分の評価項目の内、硝子率の上昇が全国的に問題となっており、産地からは低硝子率品種の育成要望が強い。そこで、安定生産が見込める生育特性を有し、硝子率が低く高品質な裸麦品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「ハルヒメボシ」は、「四R系1350(後のマンネンボシ)」を母とし、「四R系1311」と「四R系1324」のF1を父として人工交配し、派生系統育種法で育成した六条裸麦である
  • 秋播性はIVで、出穂期・成熟期は「イチバンボシ」「ヒノデハダカ」と同程度であり、「マンネンボシ」よりそれぞれ2~3日早い早生種である(表1)。
  • 「ヒノデハダカ」よりもオオムギ縞萎縮病の被害程度が明らかに少なく、耐倒伏性が強く、成熟期以降の稈の中折れも発生しにくい。穂発芽耐性は「イチバンボシ」「ヒノデハダカ」並で「マンネンボシ」より強い(表1)。
  • 穂数は少ないが、穂長が長く(表1)、「イチバンボシ」「マンネンボシ」と同程度以上の収量性であり、「ヒノデハダカ」より多収である(表2)。
  • 原麦白度が高く、硝子粒の発生率が著しく低い。60%搗精時間は「イチバンボシ」「マンネンボシ」よりやや長いが「ヒノデハダカ」より短い。精麦白度が非常に高く、砕粒率が低く、精麦品質が優れる(表2)。
  • 6.麦麹の酵素力価は従来品種と同程度で「ヒノデハダカ」に近く、糖化力と白度が高い(表3)。熟成過程の味噌の明度や硬度(図1)および成分変動は従来品種と同等であり、同程度の味噌加工適性を有すると判断される。

成果の活用面・留意点

  • オオムギ縞萎縮病にはII型以外のウイルス系統に対しては抵抗性ではないので、多発する汚染土壌での作付けは避ける。
  • うどんこ病と赤かび病には強くないので、適期防除を行う。
  • 愛媛県で、現在約70ha作付けされている「ヒノデハダカ」に替わる味噌用品種として奨励品種に採用予定である。

具体的データ

表1 「ハルヒメボシ」の生育特性
表2 「ハルヒメボシ」の収穫物特性と精麦品質
表3 「ハルヒメボシ」の麦鞠特性図1 麦味噌仕込み時の明度と硬度

(吉岡藤治、高橋飛鳥)

その他

  • 中課題名:需要拡大に向けた用途別高品質、安定多収大麦品種の育成
  • 中課題番号:112e0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(水田底力)
  • 研究期間:1994~2011年度
  • 研究担当者:吉岡藤治、高橋飛鳥、柳沢貴司、長嶺敬、高山敏之、土井芳憲、松中仁、藤田雅也、土門英司、杉浦誠、伊藤昌光
  • 発表論文等:1)吉岡ら「ハルヒメボシ」品種登録出願 2012年3月28日(第26868号)