高断熱資材はパイプハウスの保温性能向上に有効である

要約

布団状の被覆資材(高断熱資材)は、国内で使用されている従来の保温用被覆資材と比較して断熱性が極めて大きい。高断熱資材の利用によりパイプハウスにおける暖房燃料使用量を40%以上削減でき、パイプハウスの保温性能向上に有効である。

  • キーワード:断熱性、被覆資材、熱貫流率、省エネルギー、パイプハウス
  • 担当:日本型施設園芸・温暖地施設園芸
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・傾斜地園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国の施設園芸における暖房は石油に依存しており、省エネ・脱石油対策が極めて重要である。暖房燃料使用量の削減を図るためには、パイプハウスの保温性能向上により暖房負荷を抑制することが基本であり、高い断熱性を有する被覆資材の利用が有効である。中国のいわゆる'日光温室'の外面被覆や、韓国の一般温室の保温カーテン資材として使われるようになっている布団状の被覆資材(以下、高断熱資材という)は、断熱性が高いと考えられ、今後わが国での利用される可能性がある。一方、従来の被覆資材の断熱性評価は、屋外に建てられた温室を用いて測定された熱貫流率を比較するものであり、温室形状や気象条件が同一条件で相互比較することが困難であったが、熱貫流率測定装置が開発されたことにより、大気放射環境を模した同一条件下において被覆資材の断熱性の比較が可能になった。そこで、断熱性能評価を行うための基準測定条件を設定するとともに、従来利用されている被覆資材より高い断熱性を有すると考えられる高断熱資材の断熱性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 大気放射を模した冷却板温度を低くすると熱貫流率は大きくなる。基準測定条件として熱貫流率が最も大きくなる冷却板温度-20°C(晴天時を模擬)を採用する(図1)。
  • 熱貫流率により比較した被覆資材の断熱性は、高断熱資材(A>B)>アルミ編込資材>気泡緩衝材入り資材>農業用塩化ビニルフィルム(農ビ)>農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO)の順である(図2)。
  • 高断熱資材は、中綿の素材としてポリエステル綿、フェルト地、発泡ポリエチレンなどが用いられ、繊維資材などで3~5層構造としたものである。柔軟性がなく可動式に不向きな高断熱資材(図3A)と柔軟性のある高断熱資材(図3B)などがある(図3)。
  • 高断熱資材をパイプハウスに適用した例では、暖房燃料使用量を40%以上削減できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 高断熱資材は透光性がないことから、開閉装置を設けて夜間のみ広げて外面被覆や内張保温に利用する。
  • 高断熱資材は、国内では現時点で流通していない。また重量物であるため取扱性の改善等を図る必要がある。
  • 熱貫流率測定装置は、測定庫内の天板に取り付けられた冷却板により、屋外の放射熱交換環境を模擬的に作出し、同一条件下において被覆資材の熱貫流率を測定できる。基準測定条件は、晴天夜間を模擬した条件として冷却板温度-20°C、ハウス内気温15°C、外気温0°C、結露なしの場合を想定している。

具体的データ

図1 冷却板温度の違いによる被覆資材の熱貫流率の比較図2 一般的な内張り資材と高断熱資材との断熱性の比較
図3 高断熱資材の構造の例図4 高断熱資材をパイプハウスに適用した時の暖房燃料消費量の比較

(川嶋浩樹)

その他

  • 中課題名:日光温室等の活用による温暖地における高収益・安定生産施設園芸技術の開発
  • 中課題番号:141c0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:川嶋浩樹、長崎裕司、林真紀夫(東海大)、古市崇雄(香川農試)、松崎朝浩(香川農試)、直木武之介(佐藤産業)、宮内樹代史(高知大)
  • 発表論文等:林ら(2010)農業施設、41(4):163-169