苗立ち安定化に向けた鉄コーティング種子を活用した水稲の無代かき直播

要約

鉄コーティング種子の無代かき表面直播における水管理は播種時の湛水、出芽始の落水および本葉展開時の湛水から成る。無代かきでは減水深が大きく出芽始に滞水部が発生しにくいため、還元障害を回避でき苗立ちが安定化する。

  • キーワード:鉄コーティング種子、直播、代かき、無代かき
  • 担当:新世代水田輪作・中小規模水田輪作
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

鉄コーティング種子は浮きにくいため、代かき後の湛水直播栽培に使用されている。基本的な水管理は播種時の湛水、出芽始の落水、本葉展開時の湛水から成り立っている。本技術において代かきを省略できれば一層の省力低コスト化を図ることができる。また、代かきには漏水を抑制するメリットがあるが、過剰に行うと滞水部が発生して苗立ちが不安定になるデメリットもある。そこで、鉄コーティング種子の直播について無代かき条件下での実施可能性を解明する。

成果の内容・特徴

  • 鉄コーティング種子の無代かき表面直播における播種から苗立ち期における基本的な水管理は、播種時の湛水、出芽始の落水及び本葉展開時の湛水から成り(図1)、代かき直播と類似している。播種前の均平化にはレーザーレベラーの使用が望ましいが、難しいときは前作に代かきした均平な圃場で実施する。
  • 無代かき表面直播の苗立ちは代かき直播に匹敵する(図2)。種子と土壌の密着が肝要であるときは播種後の鎮圧により苗立ちは高まる。
  • 無代かきでは透水性が高いので滞水部が発生しにくい。そのため、還元障害がなく苗の根張りがよい(写真1)。
  • 除草剤は代かき直播と同様に初期剤と一発処理剤を使用する(図1)。乾田直播のときは播種前または播種後出芽前にグリホサート系液剤を使用できる。
  • 無代かき直播では代かき直播に比べて漏生イネが発生しやすい(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 鉄コーティング種子の無代かき表面直播は試験を実施した寒地(北海道)、寒冷地(岩手県)、温暖地湿田(島根県)、中山間(広島県)、乾田直播地帯(岡山県)において実施可能であった。
  • 滞水部では病害虫(苗腐病、イネミズゾウムシ)や水生生物(スクミリンゴガイ、モノアラガイ類、ユスリカ、カブトエビ)による苗立ち不良が発生しやすいことが判明しており、無代かきはこの問題を解決する有効な耕種的防除法である。
  • 代かきと無代かき直播の使い分けについては地力増進基本指針に定められた日減水深(10mm以上30mm以下)を目安とする。水田の減水深を調節する一手法として無代かきを導入する。ただし、一発処理剤などは減水深20mm以下で使用する。
  • 減水深が小さいと出芽始の落水が難しい。一方で、減水深が大きいと除草剤の散布回数が増え、養分が過剰に集積した水田では硝酸性窒素が地下水を汚染しやすいことに留意する。
  • 無代かき直播は麦後の直播、乾直・湛直の状況に応じた使い分け、大型機械の沈下防止、スクミリンゴガイ被害軽減、輪作での湿害軽減などの観点からも実用性を見込める。

具体的データ

図1~3,写真1

その他

  • 中課題名:中小規模水田に対応した生産性向上のための輪作システムの確立
  • 中課題番号:111b4
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:山内稔、宮川久義、高橋英博、角治夫(島根農技セ)、高橋眞二(島根農技セ)、荒木卓久(島根農技セ)、月森弘(島根農技セ)、道上伸宏(島根農技セ)、佐々木亮(道総研)、齊藤邦行(岡山大)、田邊詩歩(岡山大)、猪谷富雄(県立広大)、地川侑希(県立広大)、伊藤純樹(広島総研農技セ)、瀧村勇二(広島総研農技セ)、松浦昌平(広島総研農技セ)、藪宏典(広島総研農技セ)
  • 発表論文等:
    山内(2012)日作紀、81(2):148-159
    松浦ら(2012)日植病報、78(4):301-304