大規模経営の存在する地域では離農率は高いが耕作放棄地率は低い
要約
近畿、中国、四国において土地利用型大規模経営が存在する地域では、存在しない地域と比較して、販売農家(水田作経営)の離農率および総農家数減少率は高いが、経営耕地面積減少率および耕作放棄地率は低い。
- キーワード:土地利用型大規模経営、離農率、総農家数、経営耕地面積、耕作放棄地率
- 担当:経営管理システム・開発技術評価
- 代表連絡先:電話 084-923-4100
- 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・営農・環境研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
農政が方針として示す土地利用型大規模経営(以下、大規模経営)への農地集積には、農地の貸し出しなどを通じて小規模農家に離農を促す、あるいは逆に離農が進んだ結果として大規模経営が成立するという側面がある。いずれにしても、大規模経営が離農農家の農地を引き受けることで地域内の農地面積の減少抑制などが期待される。
本研究では、近畿、中国、四国を対象として大規模経営が存在する地域と存在しない地域とで、1)販売農家の離農率に差があるか否か、2)総農家数減少率と経営耕地面積減少率、耕作放棄地率との関係に差があるか否か、について検討する。分析期間は2005~2010年とし、分析対象などは以下の通りとする。
(1) |
離農率の分析対象:水田作経営の2ha未満層。水田作経営とは"販売金額1位部門が稲作、麦類作、雑穀・いも類・豆類、工芸農作物のいずれか、または販売無し"かつ"田面積>畑面積(普通畑+樹園地)"の販売農家。水田作経営は総販売農家数の5~8割を占め、また水田作経営の離農農家のうち9割以上が2ha未満層である。 |
(2) |
大規模経営:経営耕地面積10ha以上の農業経営体(経営部門は問わない)。農業経営体は「農林業センサス」の定義に従う。その有無は2010年時点で判断。 |
成果の内容・特徴
- 農業後継者の状態(有りまたは無し)と経営耕地面積規模が同じならば、地域内に大規模経営が存在する水田作経営の方が存在しない地域より離農率が高い(図1)。 つまり、離農率への影響要因である経営部門、経営主年齢をそれぞれ水田作経営、50~69歳層に設定し、また同じく離農率への影響要因である農業後継者の有無、経営耕地面積規模を一定にしてもなお、大規模経営が存在する地域の水田作経営は、存在しない地域より離農率が高いことを示している。
- 大規模経営が存在する地域では、存在しない地域に比べて、総農家数減少率が高い一方、経営耕地面積減少率、耕作放棄地率はともに低い(図2)。つまり、耕作放棄地率などは農業地域類型間で差がみられることが指摘されているが、農業地域類型を中間農業地域に設定してもなお、大規模経営の有無間でそれらに差があることを示している。
成果の活用面・留意点
- 土地利用型大規模経営の育成・確保がもたらす効果を検討する際の参考情報になる。
- 都市的、平地農業、山間農業の各地域でも、大規模経営の有無別にみた各数値の大小関係は、程度差はあるが図2と同様である(四国における山間の総農家数減少率を除く)。
- 離農とは農家が「農林業センサス」の農家の定義に該当しない世帯になることを指す。
- 大規模経営の有無を判断する地域の基本単位は、旧市区町村(1950.2.1現在の市区町村)である。
具体的データ
その他
- 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
- 中課題番号:114a0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011~2012年度
- 研究担当者:渡部博明
- 発表論文等:渡部ら(2012)近畿中国四国農研農業経営研究、23:73-84。