高断熱資材で保温性を高め、ダブルアーチで構造強化したパイプハウス

要約

開発したハウスは、断熱性の高い布団資材を内張りに利用し、施工性の優れた取付部材により高強度なダブルアーチ構造を有する。水蓄熱併用で暖房負荷を慣行2重被覆ハウスの3分の1にまで軽減できるとともに、耐風速35m/s以上の強度が得られる。

  • キーワード:高断熱資材、暖房負荷、省エネルギー、構造強化、パイプハウス
  • 担当:日本型施設園芸・温暖地施設園芸
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・傾斜地園芸研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

施設園芸における暖房燃料使用量の削減を図るためには、パイプハウスの保温性能向上により暖房負荷を抑制することが基本であり、高い断熱性を有する布団状の被覆資材(以下、布団資材)の利用は保温性能の向上に有効である(2011年度成果情報)。一方、近年、大型台風や突風による強風被害が頻発しており、パイプハウスの構造強化の必要性が増している。そこで、布団資材の適用による保温性能向上をはかるとともに、ダブルアーチで構造を強化したパイプハウス(以下、開発ハウスとよぶ)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 布団資材を内張りに利用することでパイプハウスの保温性能が向上し、暖房負荷が慣行ハウスの約半分になる。さらに、東西棟として東西妻面と北側を布団資材によって固定張りとした開発ハウスにおいて、北側固定壁部分に水蓄熱を組み込むことで暖房負荷を慣行ハウスの3分の1程度(1W/m2/°C以下)にまで軽減できる(図1)。
  • 新たに開発したダブルアーチ化のための取付部材は、アーチパイプを2重にして連結する部材(鋼板製平行補強金具)、アーチパイプと桁行き直管とを連結する部材(鋼板製直交補強金具)およびアーチパイプと妻面とを連結する部材(鋼板製妻金具)である(図2)。
  • 金具の取付数を変えることで想定耐風速35~50m/sに対応した強度水準を得ることができる(図3)。従来工法より高強度でかつ桁行き方向のぶれを抑えられることから、アーチパイプ間隔を一般的な間隔(0.5m)の3倍(1.5m)としてアーチパイプ使用量を3分の2にまで省骨材化できる。
  • 開発ハウスの資材コストは、慣行のパイプハウス(耐風速20m/s)と比べて約40%(水蓄熱は除く)、本体骨組み(基礎補強資材を含む)部分のみでは約20%高いが、開発ハウスと同程度の強度を有する鉄骨補強パイプハウスより低い(図4)。
  • 既存パイプハウスに布団資材を組み込むことにより暖房燃料使用量を半減させる効果が実証されている、また、既存パイプハウスに対してダブルアーチによる補強を施すことで、35m/sの強風でも被災しないことが実証されている。なお、補強用資材として既存パイプハウスのアーチパイプを使用することなどにより、構造強化に要したコストは1,385円/m2(基礎補強資材を含む)、布団資材とその開閉機器の導入コストは2,109円/m2である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設園芸生産者、パイプハウス施工事業者。
  • 普及予定地域:パイプハウスで生産を行う全国(耐積雪強度については未検討)。
  • その他:開発部材を適用したハウスが開発されている(ハウスメーカー2社)。10道府県で技術の適用・応用事例がある。台風・強風対策マニュアル(静岡県、2012)に対策技術のひとつとして掲載されている。
  • 成果集、施工マニュアル、部材積算支援シートを公開する。具体的データは成果集を参照。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:日光温室等の活用による温暖地における高収益・安定生産施設園芸技術の開発
  • 中課題番号:141c0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:川嶋浩樹、長崎裕司、森山英樹、林真紀夫(東海大)、宮内樹代史(高知大)、古市崇雄(香川農試)、糸川桂市(香川西讃農改セ)、直木武之介(佐藤産業)、高野祐二(GTスパイラル)
  • 発表論文等:
    1)川嶋ら(2013)農業施設、44(2):73-83
    2)佐藤産業(2012)農業施設学会技術賞、農業施設、43(3):79-80
    3)農研機構近農研(2013)次世代型パイプハウス施工マニュアル