冬作イタリアンライグラス草地はイノシシの冬期の餌場となるため、侵入防止対策が必要
要約
冬期にイノシシが冬作イタリアンライグラス草地に頻繁に出没して、牧草を採食する被害が発生する。イタリアンライグラスの被害割合は6割以上である。そのため、冬作イタリアンライグラス草地では電気柵などによる侵入防止対策を行う必要がある。
- キーワード:イタリアンライグラス、イノシシ、寒地型牧草、採食被害、侵入防止対策
- 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理
- 代表連絡先:電話 0854-82-0144
- 研究所名:近畿中国四国研究センター・畜産草地・鳥獣害研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
イノシシによる牧草地での被害については、これまでのところ掘り起こしの被害の報告しかない。最近になり、掘り起こし被害の発生していない寒地型牧草地でもイノシシが目撃され、牧草の地上部の採食痕がみつかっていることから、イノシシが牧草の地上部を採食する被害が発生している可能性があるが、多くの現場ではこの被害に気付いていない。また、イノシシが牧草を餌として利用することで、牧草そのものの被害だけでなく、餌の少ない冬にイノシシを養うことで周辺農地での農作物被害を助長してしまう可能性がある。そこで、イノシシの冬作イタリアンライグラス草地の利用実態について明らかにする。
成果の内容・特徴
- 10月~3月までのイタリアンライグラス草地(2ha)でのイノシシの糞塊数は、合計3,809個である。冬期にイノシシが牧草地に頻繁に出没することがわかる。
- 糞の内容物の占有割合の40%超が、イネ科草本を中心とした単子葉草本である(図1)。糞中の植物片にイタリアンライグラスが確認できる。
- 赤外線自動撮影カメラで、イノシシが牧草を採食するところを確認できる(図2)。
- イノシシが植物を食べられないような小型のケージ(縦1m×横1m×高さ0.6m)を12月に10個設置した後、3月にケージ内外の植物を刈り取る。その乾燥重量を測定すると、ケージ外のイタリアンライグラスの乾燥重量(30.0g/m2)はケージ内(79.2g/m2)よりも大幅に少ない(図3)。イノシシによる採食被害割合は62.1%である。
- 電気柵を適切に設置・管理すれば、牧草の採食被害を防止できる(図4)。
普及のための参考情報
- 普及対象:生産者、府県・市町村鳥獣害・畜産担当者
- 普及予定地域:イノシシによる農作物被害の発生地域
- その他:
1) |
牧草の地上部の採食被害が発生しているにもかかわらず、被害が見過ごされている可能性がある。牧草地に小型のケージを設置するだけで、簡単にイノシシの被害を確認できるので、まずは被害の有無を確認する必要がある。 |
2) |
イノシシによって牧草そのものが被害を受けるだけでなく、餌の少ない冬にイノシシを養ってしまうという問題もある。このことを念頭において、被害が深刻な地域ではしっかりと侵入防止対策を行う必要がある。 |
3) |
耕作放棄地での冬季放牧用にイタリアンライグラスを導入する場合には、放牧牛用の電気牧柵にイノシシの侵入防止用に高さ20cmと40 cmにも電線を張ると良い。 |
具体的データ
その他
- 中課題名:野生鳥獣モニタリングシステム及び住民による鳥獣被害防止技術の確立
- 中課題番号:420d0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2006~2012年度
- 研究担当者:上田弘則、高橋佳孝、井上雅央
- 発表論文等:上田ら(2008)日本草地学会誌、54(3): 244-248.