育苗期に発生する水稲種子伝染性病害の鉄コーティングによる防除効果
要約
粒度の粗い鉄粉を用い鉄コーティング種子調製機で作製した実用レベルの水稲鉄コーティング種子は、育苗期のもみ枯細菌病(苗腐敗症)、苗立枯細菌病およびばか苗病の発病を抑制する。この病害防除機作は鉄粉の酸化熱による殺菌作用ではない。
- キーワード:鉄コーティング種子、水稲、鉄粉粒度、育苗期病害、防除
- 担当:新世代水田輪作・中小規模水田輪作
- 代表連絡先:電話 084-923-4100
- 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
これまで各種病原菌を保菌した水稲種子を鉄コーティングすると、種子伝染性の育苗期病害が抑制されることが報告されている(井上ら、2009)が、それは従来使っていた主に粒度の細かい鉄粉(DSP317)を用いて、実験室内で風乾した研究レベルの結果である。また、DSP317鉄粉は他の鉄粉に比べ防除効果がやや高い傾向で、鉄粉粒子の粗細の影響が示唆された(井上ら、2012)。一方、鉄コーティング湛水直播の普及に伴い鉄コーティング種子を大量製造する際には、消防法の危険物に該当しない粒度の粗い鉄粉を使い、鉄コーティング種子調製機に搬入して表面を十分錆びさせ仕上げている。そこで、この実用レベルの鉄コーティング種子の病害防除効果を検討する。
成果の内容・特徴
- 従来使っていたDSP317鉄粉は53μm以下の細かい粒子が91.6%で、消防法別表1記載の危険物の規制(53μm以下の粒子が50%未満であること)を受けるが、今回供試した鉄粉(J5鉄粉)は53μm以下の粒子が28.5%で規制を受けない(図1)。
- 従来は鉄コーティング後に実験室内で薄く広げて酸化させていたが、温度測定は行っていないため種子温度は不明である。今回は鉄コーティング種子調製機(金子農機製、最大処理量:500kg、乾籾換算)を用いているため、酸化放熱時での種子温度は最高約26°C以下、仕上げの乾燥時では最高約36°C、平均約34°Cと種子温度が明らかである(表1、図2)。
- もみ枯細菌病菌、苗立枯細菌病菌、ばか苗病菌を保菌した開花期接種種子あるいは自然感染種子を上述の方法で鉄コーティング後に育苗培土に播種すると、防除価98-100の高い防除効果が得られる(表2)。
- 前述のように鉄コーティング種子調製機内での種子温度は最高約36°C(表1)であるが、もみ枯細菌病菌、苗立枯細菌病菌は37°Cでも培地上で増殖する。また、ばか苗病菌は37°Cで7日間培養後も、培養温度を25°Cに下げると速やかに菌糸伸長する(図表省略)。鉄コーティング種子の病害防除効果は鉄粉の酸化熱による殺菌作用ではなく、Fe2+イオンの遊離など、他の要因によるものと考えられる。
成果の活用面・留意点
具体的データ

その他
- 中課題名:中小規模水田に対応した生産性向上のための輪作システムの確立
- 中課題整理番号:111b4
- 予算区分:交付金、実用技術
- 研究期間:2011~2013年度
- 研究担当者:宮川久義、山内 稔
- 発表論文等:宮川ら(2013)関西病虫研報55:23-30