地下水位制御システムを用いた梅雨明け後に播種する大豆の苗立ち向上技術

要約

地下水位制御システム圃場で梅雨明け直後の高温少雨期に大豆を播種する場合、播種後に設定水位を高くして圃場表面に水分を供給すると出芽率が向上し、苗の生育が揃う。播種前に圃場表面を湿らせておくと、土壌への水分浸透が迅速かつ均一化する。

  • キーワード:大豆、梅雨明け後の播種、地下水位制御システム、苗立ち、高水位
  • 担当:新世代水田輪作・中小規模水田輪作
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

暖地や温暖地では梅雨明け後に著しく高温で少雨となる期間が約1ヶ月継続するため、梅雨期と重なる通常の播種期と違って大豆を降雨の影響を受けずに安定した播種作業を進めることができる。しかし、土壌が過度に乾燥して出芽に必要な水分が不足するため出芽不良となりやすい。その結果、苗立ち不良による減収や、生育不揃いにともなう成熟の不斉一から子実の品質低下が生じるため、梅雨明け後に播種する栽培体系が確立されない原因の一つとなっている。そこで、梅雨明け後播種における大豆の苗立ちを確保するため、地下水位制御システムを活用した苗立ち向上技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、地下水位制御システムを有し、かつ夏季の高温・乾燥期に地表面が乾燥して大豆を播種しても水分不足により出芽不良となる圃場において、設定水位を標準(約-30 cm)よりも一時的に高く(高水位処理)して出芽を促進し、斉一な苗立ちを確保するものである。高水位処理は播種前と播種後の2種類からなる(図1)。
  • 播種前の高水位処理は、播種後の土壌水分供給を迅速かつ均一に浸透させるものであり、大豆を播種する前に設定水位を標準よりも高くし(-10~+5cm程度)、圃場全体の地表面が一様に変色するまで湿らせたあと、すぐに給水を止めて排水または最低水位に設定する(図1、I)。その後、機械播種が可能になるまで地表面が乾燥するのを待ち(2日以上)、大豆を播種する。
  • 播種後の高水位処理は、播種日の翌日に設定水位を高くし(-15~-5 cm程度)、播種領域の地表面が一様に変色するまで水分を供給して出芽を促進する。地表面が変色したら種子の過湿害を避けるため、すぐに標準の設定水位まで下げる(図1、II)。
  • 播種後の高水位処理により、大豆の出芽率はほとんどの場合で処理をしない場合と同等以上となる(図2)。このとき、播種前の高水位処理をしないと、水分の浸透ムラが生じて出芽率が低くなることがある(図2、○と△)。ただし、梅雨明け直後や一時的な降雨など、圃場の地表面が湿って、播種後の高水位処理だけで水分が地表面まで迅速かつ均一に浸透することが明らかな場合は、播種前の高水位処理を省略できる。
  • 高水位処理により苗は葉齢の進行が促進されると同時に生育が斉一化する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 面積の大きい圃場では、圃場面の高い部分は水分の浸透が悪く、低い部分は過湿となり、いずれも出芽が不良となる危険性が高まるので、圃場の均平化に努める。
  • 本成果は不耕起または部分耕播種を実施した結果に基づく。
  • 技術紹介パンフレット「地下水位制御システムを利用した大豆栽培-梅雨明け後の晩播栽培-ver.2」(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/009600.html)を参照。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:中小規模水田に対応した生産性向上のための輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b4
  • 予算区分:交付金、委託プロ(担い手)
  • 研究期間:2007~2013年度
  • 研究担当者:竹田博之、岡部昭典、奥野林太郎
  • 発表論文等:竹田、佐々木 (2013)日作紀、82(3): 233-241